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社説・コラム

『書評』 郷土の本 「8月6日の蒼い月」 核廃絶を願い体験をつづる 

 広島市出身の詩人橋爪文さん(86)=東京都=がエッセー集「8月6日の蒼(あお)い月」を刊行した。自身や家族の被爆体験、核廃絶への思いなどをつづる。

 14歳の時、爆心地から1・6キロ離れた動員先の広島貯金支局(現中区)で被爆した。頭に重傷を負った自分を助けてくれた同僚女性や、被爆死した弟の思い出を振り返る。

 戦後、原爆傷害調査委員会(ABCC)の検査では「物体」として扱われたように感じ、「強い屈辱感を味わった」と記す。原因不明の高熱や下痢に長く悩まされたという。

 61歳で英スコットランドに語学留学。言葉がうまく通じなくても「被爆者として存在する」ことが反核の訴えになると感じたこと、単独で海外を訪れ、被爆証言をするようになったことにも触れる。

 原発を含めた核廃絶を願う橋爪さん。チェルノブイリや福島などで事故が起きてもなお、多くの原発が残る現状を憂う。光を探す思いを込め、「希望」と題した詩で締めくくっている。

 1620円。コールサック社。(鈴木大介)

(2017年11月5日朝刊掲載)

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