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「黒い雨」気象実験を断念 範囲検証で広島市方針 風のデータそろわず

 広島市は17日、「黒い雨」など原爆投下直後の放射性降下物が降った範囲や放射線量を検証するため、来年度予定した気象シミュレーション実験を断念する方針を決めた。必要な当時の気象データがそろわないため。今後も情報提供を呼び掛けるが戦時中のデータの収集は困難とみられ、実験は事実上、中止される見通しだ。

 黒い雨の指定地域外で雨を浴びた住民の対策について、市などは住民調査を基に指定地域を約6倍に広げるよう求める。実験で降雨域が広かったと証明されれば、国を説得する有力な材料になると期待されていた。

 専門家でつくる市の協議会は2010年秋からデータ収集を開始。きのこ雲の発達状況や当日の火災状況など必要なデータの大半は集まったが、風に関するデータだけがそろわなかった。このため2年間の調査期間を1年延ばし、実験を来年度に先送りしていた。

 17日、中区で開いた協議会で、収集に当たった委員が国内外の関連施設や専門家に尋ねても必要なデータが集まらなかったと報告。「来年度の実施は困難」と確認した。

 委員の一人で、気象庁気象研究所(茨城県つくば市)の青山道夫主任研究官は「終戦期の空襲のためか、特に西日本のデータがほとんど見つからない」と説明する。

 実験断念に広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会の高野正明会長(74)=佐伯区=は「戦後67年が過ぎ、国が求める科学的根拠の提示は至難の業だ」と話した。市原爆被害対策部は「残念だが指定地域拡大は要請していく」とする。

 黒い雨をめぐって、厚生労働省は有識者検討会が7月にまとめた報告書を踏まえ、拡大を見送っている。(田中美千子)

(2012年10月18日朝刊掲載)

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