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連載・特集

核なき世界への鍵 前進のために <1> 超大国の姿勢

 核兵器禁止条約ができた今、「核兵器なき世界」の実現を目指し、どう進むか。被爆地広島市で賢人会議(27、28日)と国連軍縮会議(29、30日)がある。条約制定後の国連や国際会議での議論から、急がれる一歩を考える。

新開発せず軍縮交渉を

 被爆者の努力に触れて核兵器禁止条約の制定を歓迎するのと同時に、各約7千発を持つ米ロに核軍縮交渉を求めた。約50カ国200人以上の科学者らが参加した8月の「パグウォッシュ会議」世界大会(カザフスタン)の声明の意味が今、重い。核戦略の指針見直しを進めるトランプ米政権が、新たな核戦力の開発を打ち上げかねないからだ。

 「米国の動きを気にする声を大会で多く聞いた」。出席した広島大の稲垣知宏教授(素粒子物理学)は言う。広島大で学び、核兵器廃絶を目指す同会議に2007年のイタリア大会から参加。運営に携わった一昨年の前回、長崎大会は、核戦力の維持・改修を図る「近代化」中止を保有国に求める宣言を発表した。

 だが、今年就任したトランプ氏は、核軍拡すら示唆。稲垣教授は、年内にもまとまるとみられる「核体制の見直し(NPR)」と呼ばれる指針に、とりわけ「低威力」の新たな小型核の開発・配備の推進が含まれないか懸念する。

 新小型核開発はブッシュ(子)政権下で議会の反対で頓挫したが、核開発を進める北朝鮮やロシアへの対抗策に再浮上。米国防総省の助言機関、国防科学委員会が昨年末、「新政権」への提言で触れた。今年8月、NPR作成に関わるとされるセルバ統合参謀本部副議長が「低威力核」の戦略的意義を指摘したとも伝わる。

 広島原爆(16キロトン)より小さな数キロトンの核を精密誘導すれば、被害を局地的に抑えられ、核施設などの攻撃の現実的な選択肢として抑止力になる―。再浮上の論理に、稲垣教授は「核使用の敷居を下げかねない。一般市民が被害に遭う懸念は消えず、放射線の長期的な健康影響など非人道性は同じ」と批判する。かたや米国は、1960年代に開発した核爆弾も最新鋭ステルス戦闘機F35搭載を視野に「延命」措置を進める。「廃絶に向かう歴史からの逆行。やめてほしい」

 同じくロシアも核戦力を近代化し、安全保障上の役割を増やす姿勢を見せる。禁止条約の推進国からすれば、核大国自らが重要と訴える核拡散防止条約(NPT)の軍縮義務に背を向け、非保有国との「対立」構図をつくり出していると映る。

 10月の国連総会第1委員会(軍縮)でも推進国が相次ぎ近代化に懸念を表明。国際非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))は禁止条約をてこに、北朝鮮、それを批判する核大国双方を問うた。「条約が禁じている行為を強く非難する。もちろん、核実験、核戦力の近代化を含む」

 米議会予算局は先月、近代化費用の試算を更新した。今後30年間で約1・2兆ドル(約135兆円)に達する。パグウォッシュ会議は、中止すれば浮く多大な予算を、サイバー攻撃による意図せぬ核爆発の防止策などの「安全保障」に使いつつ、廃絶を急ぐよう提案している。(水川恭輔)

(2017年11月21日朝刊掲載)

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