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核なき世界への鍵 前進のために <4> 禁止条約の課題

「ずる」許さぬ検証必要

 米ニューヨーク・国連本部からインターネットで世界に中継された先月の国連総会第1委員会(軍縮)。核兵器禁止条約に反発する保有国は、条約が守られているかを確かめる「検証」の仕組みをやり玉に挙げた。「信用できる検証措置を含まない」(米国)「検証の技術課題に対処していない」(英国)。

 外務省に勤め、核物質の軍事転用を防ぐための査察をする国際原子力機関(IAEA)に出向経験がある平和首長会議(会長・松井一実広島市長)の小溝泰義事務総長は、条約推進の側から保有国の主張を読み解く。

 「核の刃を向け合う保有国が互いに核を廃棄する際、自分は真面目に減らしても相手が『ずる』していないか探知できないと安心できない。安心できるレベルの検証措置は、確かに保有国抜きではできない」

 核兵器に関する技術は保有国ごとの機密で「ずる」の判断基準さえ、非保有国は詳しく分からない。禁止条約は、保有国が時間枠を定めて廃絶するなら加盟できるが、削減具合の具体的な検証方法は未定。IAEAの関わり方も不透明だ。

 小溝事務総長も課題を挙げる。非保有国出身者が査察に関われば、その国への拡散リスクが付きまとう。また弾頭の状態から廃棄されるまで全てを見届ける方が確実だが、それでは各国が秘密にしたい仕組みや技術の漏えいにつながるため、解体作業の確認は制限せざるを得ないという。

 検証は米ロの過去の核軍縮条約でも不可欠の要素だった。小溝事務総長は3月の禁止条約交渉会議で、保有国が加盟前でも締約国会議にオブザーバー参加し、廃棄の検証方法を詰められるよう提案。関連条項が入った。第1委ではオーストリアが、この条項を生かして保有国自らが検証の議論に加わるよう促した。

 禁止条約体制下での核軍縮の検証に役立つ可能性がある国際会議も存在している。オバマ前米政権の主導で2014年に始まり、保有国、非保有国が共に信頼できる検証措置を考える「核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)」だ。昨年の東京会合はメキシコなどの条約推進国も参加した。開催に携わった日本は、検証措置が核兵器廃絶に不可欠とし、今後も積極貢献する意思を示す。

 禁止条約では、廃棄のほかにも検証すべき行為がある。例えば、「開発」や、包括的核実験禁止条約(CTBT)にない「爆発を伴わない実験」が実際に起きていないか。外から見えにくく、科学者や技術者らの「内部告発」を促す仕組みの必要性を説く専門家もいる。

 爆発を伴う実験は、CTBT機関準備委員会が各国に既に監視施設を整えている。発効すれば、現地査察などで検証力は強まるが、その要件国の米中などが未批准。日本は発効の促進を掲げ、今年も主導した国連の核兵器廃絶決議案で触れた。

 小溝事務総長は今月22日、広島市役所で記者会見。27、28両日に市内である核軍縮を巡る外務省の「賢人会議」の委員として、検証の重要性を主張する考えを明かした。「禁止条約ができた今、条約がいい悪いで足踏みせず、次に進むべきだ」(水川恭輔)

(2017年11月24日朝刊掲載)

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