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[インサイド] 日米一体運用 山口で鮮明 イージス・アショアや宇宙監視施設計画

ミサイル・衛星に対処

 山口県内に最新の防衛施設を配置する動きが相次いでいる。防衛省は、山陽小野田市に「宇宙監視レーダー」を計画し、萩市を地上配備型のミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の候補地に挙げる。同省は、いずれも2023年度の運用開始を目指す。新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)は、宇宙空間や弾道ミサイル防衛での相互協力を掲げており、専門家は「米軍と自衛隊の一体運用強化の現れだ」と指摘する。(和多正憲)

 「人工衛星を衝突の危険から回避させる。宇宙空間の安定的な利用が目的」。21日夜、山陽小野田市内であった防衛省の住民説明会。同省職員は、故障などで役割を終えた「宇宙ごみ」を監視する初の専用レーダーを、海上自衛隊の山陽受信所跡地(同市)に整備する考えを伝えた。

 同省は23年度までに航空自衛隊に宇宙監視の専門部隊を新設する計画だ。米軍や宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携して宇宙ごみの情報を共有し、衛星の軌道修正に役立てるという。ただ、住民説明会の資料では「不審な衛星」も監視対象とされ、参加者からは「軍事目的が主では」「レーダーがミサイル攻撃の標的にならないか」と不安の声が上がった。

中国抑止力に

 県内では、同省が同じく23年度の運用開始をにらむイージス・アショアを巡り、陸上自衛隊むつみ演習場(萩市)が候補地に浮上している。北朝鮮の弾道ミサイル発射に備え、山口、秋田両県に計2基を分散配備。それぞれ西日本と東日本を防護範囲とする最新鋭の地上型迎撃システムだ。

 この日の説明会でも、県内の「地上イージス」配備への質問が相次いだが、同省職員は「まだ何も決まっていない」「(宇宙監視)レーダーはイージス・アショアの関連施設ではない」と強調。「不審な衛星」の監視も「特定の国を念頭に置いていない。他国の軍事的な脅威にはならず、攻撃目標となる可能性は極めて低い」と繰り返した。

 ただ、15年改定の日米の新ガイドラインでは、すでに弾道ミサイル攻撃や宇宙監視での自衛隊と米軍の協力強化をうたっている。近年相次ぐ北朝鮮のミサイル発射に加え、中国などの「衛星破壊兵器」から、日米が弾道ミサイルの警戒監視などで利用する人工衛星を防御する狙いも透ける。

 「真の目的は中国への抑止力だろう。新ガイドラインが現実の防衛政策に反映された動きだ」。軍事評論家の前田哲男氏は、二つの最先端の防衛施設に「日米同盟の深化」をみる。では、なぜ山口県なのか。

「米意向感じる」

 前田氏の見立てはこうだ。「山口はグアム、秋田はハワイに弾道ミサイルが発射された場合の軌道上にある。地上イージス配備は、日本本土の防衛よりもむしろ米国側の意向を感じる。集団的自衛権の行使が可能になった自衛隊の役割拡大の象徴だ」

 防衛省は山口県内へのレーダー配備の理由について、地理的に効率よく衛星を監視でき、周囲に山などの遮蔽(しゃへい)物がない点などを挙げ「総合的に勘案し適地と判断した」とする。一方、イージス・アショアの候補地に関する正式な説明はいまだない。

 22日の参院本会議。小野寺五典防衛相は、イージス・アショア配備を問われ「現時点では、どの場所に配置するかは何ら決定していない」と述べ、こう続けた。「地元の理解と協力を得ることが必須であり、丁寧に説明する考えだ」

日米防衛協力指針(ガイドライン)
 防衛協力に関する自衛隊と米軍の役割や任務に関する方向性を定めた政府間文書。冷戦時代の1978年に旧ソ連侵攻に備え策定した。97年に朝鮮半島有事を重視した内容に改定。安倍政権は指針再改定を安全保障関連法と表裏一体と位置付け、2015年4月に中国の軍拡や北朝鮮情勢を踏まえ、「切れ目のない」対処を目的に改定した。

(2017年11月24日朝刊掲載)

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