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米艦載機岩国移転 延期も強行も騒音拡散 訓練空域 進まぬ調整

 米海兵隊岩国基地(岩国市)への米空母艦載機移転が、期限を2014年に控えていながら訓練空域の調整は進んでいないことが分かった。拙速に調整すれば、民間機の安全性や利便性を損ねる恐れがある。一方で陸上空母着陸訓練(FCLP)施設建設のめども立たず、艦載機移転を延期しても強行しても、騒音の拡散が懸念される。(編集委員・山本浩司)

 岩国基地では現在、米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機と隊員・家族ら約3800人の受け入れのため、施設建設が進んでいる。駐機場や給油施設など直接部門のほか、宿舎、食堂、立体駐車場など多岐にわたる。07年度から昨年度までの投資総額は約1075億円。全て日本側の負担だ。

 米軍は同時に「空域」も要求している。「再編実施のための日米のロードマップ」(06年)には、艦載機移転は「訓練空域および岩国レーダー進入管制空域の調整が行われた後」とある。59機の移転で2倍以上になる岩国配備機の安全かつ十分な飛行と訓練には、訓練空域と基地周辺の管制空域の拡大は必須だ。

 しかし、調整は進展していない。既存の航空路、R567やR134などの軍用訓練空域、民間用の訓練空域などにより、空に「隙間」がないためだ。

国交省と平行線

 加えて空域の拡大・新設には民間航空との調整が不可欠であるにもかかわらず、広くて高高度まで自由に使える空域を求める日本政府や米軍と、「民間機の安全確保のために、絶対譲れない部分がある」という国土交通省航空局の見解は平行線のまま。レーダー進入管制空域の調整が進まないのも同じ理由である。

 航空局は「艦載機移転までには調整する必要がある」(空域調整整備準備室)と認識してはいるものの、期限は刻々と近づく。それだけに政府や米軍が空域設定を押し切る可能性が強くなる。そうなれば、航空路の変更や民間機用の飛行高度の軍用化などが進み、民間機の安全性と経済性が損なわれることになる。

 一方、FCLPの恒常的施設建設も進んでいない。防衛省地方調整課は「鹿児島県の馬毛島を検討対象に交渉中」としているものの、「09年7月またはその後のできるだけ早い時期」という候補地選定期限から既に3年3カ月。訓練空域調整とFCLP施設建設の遅れは、艦載機の騒音を拡散させる恐れが強い。

厚木も解決せず

 訓練空域が確保できず艦載機移転が延期されると、厚木基地周辺の騒音問題は解決しない。

 反対にこのまま移転に踏み切ったらどうなるか。岩国基地での離着陸回数が激増し、基地や訓練空域、低空飛行ルート周辺の騒音は増大する。岩国基地周辺で消化できない飛行訓練とFCLPを硫黄島(東京都)で行うために厚木基地も使われる。厚木基地周辺と訓練空域周辺地域にとって、騒音軽減効果は期待できないことになる。

 つまりいずれの場合も、厚木基地周辺の騒音軽減という艦載機移転の目的が達成されないばかりか、逆に騒音が岩国、厚木両基地や訓練空域の周辺に拡散してしまう。

 「艦載機移転後も厚木周辺の騒音は軽減されないのでは、との懸念は以前からあった」と、厚木基地問題に取り組む相模原市議の金子豊貴男さん。「訓練空域をめぐる問題で、それが現実となる可能性が一層強くなった」とみる。

 空域調整とFCLP施設建設は秘密裏に進むだろう。岩国、厚木両基地に関係する自治体だけでなく、低空飛行ルート下の全国の自治体は事態の推移を注視する必要がある。

(2012年10月20日朝刊掲載)

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