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「原発からの距離」重視 中国地方進出企業 防災対策強化で加速

 東日本大震災を機に中国地方に拠点を移す企業が相次ぐ中、「原発からの距離」を重視する動きが広がっている。地震などのリスクを厳しく見積もり、防災対策を強める「事業継続計画(BCP)」を採用する企業が増えているためだ。原発や原発計画のある自治体の企業誘致に影響する可能性もある。(東海右佐衛門直柄)

 東広島市の河内臨空団地。合成樹脂接着剤メーカーのレジナス化成(東京)の新工場の建設が進む。「原発から100キロ以上離れていることが決め手となった」と高山幸義社長は打ち明ける。

 同社は震災で福島県いわき市の工場が被災。広島、山口、兵庫県の十数カ所の候補地から、原発リスクを重視して場所を決めた。「百パーセント安全でないことが証明された原発を避けるのは当然」と高山社長は言う。

顧客判断材料に

 情報サービスの両備システムズ(岡山市南区)は、岡山市北区の産業団地に来年3月稼働予定でデータセンターを建設中。「データをより安全に保管したいというニーズが増えた」と三宅健夫専務。「原発からの距離は、顧客の大きな判断材料」と説明する。

 動きの背景には「BCPの採用拡大がある」と、岡山県企業立地推進課の小島純一課長は指摘する。東日本大震災では多くの企業で防災対応が十分でなく、部品供給網の寸断や減産を招いた。これを教訓に防災対応の見直しが拡大。災害リスクを厳しく見極める動きが加速している。

 地図上に原発と計画地を落とし、同心円で距離を示す―。岡山県はこんな資料を企業誘致で示している。小島課長は「岡山には原発の立地も計画もないと伝えると、企業側が安心する」と語る。

 一方、原発に近い自治体の受け止めは複雑だ。島根原発(松江市)のある島根県企業立地課は「原発がマイナス要素だとは企業から聞いていない」。ただ「原発を懸念する企業の進出先の選択肢には、そもそも入っていないのかもしれない」との見方も示す。

 上関原発の計画がある山口県上関町近くのある自治体幹部は「企業誘致に原発はプラスでない」と話し、約30キロ圏にある下松市の産業観光課は「答えられない」とする。

新たなコストも

 原発に近い企業には新たなコストも発生している。島根原発から約10キロにある山陰合同銀行(松江市)は、原発事故時の被害の想定エリアを半径10キロから30キロに広げた。事故時は米子支店が本店機能を担うため、態勢づくりや訓練が迫られる。全国でも自動車メーカーのスズキが、中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)近くにある工場の一部機能を移転する方向でいる。

 県立広島大の間野博教授(都市計画学)は「企業は投資リスクの判断を厳格化しており、原発を避ける動きは広がりそうだ」と指摘。「原発周辺の自治体の産業振興に影響が出る可能性がある」とみる。

事業継続計画(BCP)
 自然災害やテロなどの緊急事態の際、企業が損害を最小限に抑えながら事業を継続、または早期復旧するための防災計画。巨大地震や大津波を想定していなかったケースが多く、東日本大震災後に見直しの動きが加速した。

(2012年10月20日朝刊掲載)

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