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社説・コラム

緑地帯 マーシャル諸島に学ぶ 竹峰誠一郎 <1>

 中部太平洋の小さな島から世界の未来を見つめてきたトニー・デブルムさんがことしの8月22日、世を去った。トニーさんは、私が調査に通うマーシャル諸島共和国で外相などを歴任した。

 マーシャル諸島は、グアムとハワイのほぼ中間に位置し、サンゴ礁が隆起してできた29の環礁と五つの島々からなる。総面積は広島市の5分の1に満たない180平方キロメートルで、人口も約6万人にすぎない。極小国家であり、他の太平洋諸島と同じく、取るに足らない「辺境」とみなされがちで、日々のニュースで取り上げられることはほとんどない。

 だが、トニーさんの訃報は「気候変動 太平洋諸島の代弁者 72歳で死去」(米紙ニューヨーク・タイムズ)、「パリ協定を主導 気候変動への闘いの代弁者」(英紙ガーディアン)などと、世界を駆け巡った。中国新聞でもその死を悼み、「核被害知る勇気の政治家」と小特集が組まれた。

 トニーさんはハワイ大の教壇に立たれたこともあり、私にとって先生のような存在でもあった。「いつでも家に来い」「いい資料に当たっている」などと、折に触れて励ましてもいただいた。

 マーシャル諸島に私が通い始めてから来年で20年になる。「辺境」の地でトニーさんらと出会いを重ね、学ぶことは、世界や日本、さらには被爆地広島や長崎を異なった視座から見つめ直し、自らの常識を塗り替えていく、そんな連続であった。(たけみね・せいいちろう 明星大准教授=東京都)

(2017年11月21日朝刊掲載)

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