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社説・コラム

緑地帯 マーシャル諸島に学ぶ 竹峰誠一郎 <4>

 「ホワイトハウスは情報を隠し続けているが、われわれは見えている」。マーシャル諸島の外相などを務めたトニー・デブルムさんは、自信を持って私に語った。

 1970年代後半、米国を施政権者とする国連信託統治領から独立する交渉を米国側と進めた。マーシャル諸島側の交渉代表者に、まだ30代だったトニーさんが抜擢(ばってき)されたのだ。核実験の被害補償交渉も同時に進められた。

 トニーさんは「米国が歯や尿を採っていった」ことなど自らの体験を基に、「核被害はマーシャル諸島全域に及んだ」と主張した。だが、決定的な証拠は持ち合わせていなかった。

 米政府は核実験の被害を四つの地域に限定して認め、1億5千万ドルがマーシャル諸島側に支払われた。だが、トニーさんがいた地域の核被害は否定され、「完全決着」とされた。「ここで合意しないと信託統治のままだぞと、米国はとても厳しい態度で迫ってきた」と、トニーさんは悔しそうに振り返る。

 その後、94年になって米エネルギー省は機密文書の一部を公開した。「かつて米政府が核被災の全容として示したものとは、異なった図がそこにはあった」とトニーさん。一部地域の住民を、まるで実験動物のように扱った「プロジェクト4・1 放射線被曝(ひばく)した人間に関する研究」の存在も明るみに出た。

 「否定し、うそをつき、機密にする。これが核をとりまく文化だ。マーシャル諸島でなされたことが、福島でも繰り返されている」と、トニーさんは警鐘を鳴らす。(明星大准教授=東京都)

(2017年11月24日朝刊掲載)

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