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社説・コラム

緑地帯 マーシャル諸島に学ぶ 竹峰誠一郎 <5>

 「先住民族にとって安全保障とは、土地、資源、健康が保たれていることを意味する。兵器を保有したり、危険を生じさせたりすることではない」と、マーシャル諸島に生きたトニー・デブルムさんは語った。

 だが、マーシャル諸島での核実験は「安全保障」の名の下で正当化された。核実験の被曝(ひばく)に関わる情報はいまだ機密扱いされているものがあるが、それも「安全保障のため」とされる。

 マーシャル諸島では、1958年を最後に核実験は実施されていない。しかし、59年以降、同諸島のクワジェリン環礁は米国のミサイル実験場となり、現在に至っている。

 北朝鮮情勢とも連動し、発射された弾道ミサイルを宇宙空間で撃ち落とす、地上配置型迎撃ミサイルの実験がクワジェリンで行われている。核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル「ミニットマンⅢ」の実験も行われる。カリフォルニアのバンデンバーグ空軍基地から約8千キロ離れたクワジェリンの礁湖が、標的になっている。

 「実験を安全に行うために、人があまりいない広大な空き地が必要でした。ここは完璧な場所だったのです」と、クワジェリンの基地の司令官は説明する。だが、マーシャル諸島の人々の暮らしが、そこにはある。

 「米国は安全保障のためだと言っていますが、マーシャル諸島の人々の土地を奪ったりする。安全保障とは何のことなのか」。クワジェリンの基地に隣接する島に暮らす女性は、実感を込めてそう問い掛ける。(明星大准教授=東京都)

(2017年11月25日朝刊掲載)

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