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社説・コラム

緑地帯 マーシャル諸島に学ぶ 竹峰誠一郎 <6>

 マーシャル諸島共和国は2014年4月、米国、ロシア、英国、フランス、中国、さらにインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の「核保有」9カ国を国際司法裁判所(ICJ)に訴える行動に出た。核拡散防止条約(NPT)や国際慣習法を根拠に、核保有国に核軍縮義務の履行を迫った。「核兵器ゼロ訴訟」と呼ばれる。

 「私たちはつらい経験をしたからこそ、この提訴ができ、これを進める権限があると思うのです。核実験の体験から唯一良いことがあるとすれば、この体験を世界と分かち合い、核廃絶を進める一翼を担うことです」と、外相として提訴を主導したトニー・デブルムさんは語っていた。

 核ゼロ訴訟は、国としてはマーシャル諸島が単独で起こしたが、国境を超え、軍縮に取り組む非政府組織(NGO)が共に支えた。

 「小さな国が世界で最も強大な国々を相手取ってどうする」という声もあった。だが、トニーさんは「援助をすれば思い通りになると、いまだに思い込んでいる国がある。われわれは世界の一員として判断する」と語った。援助国に操られるのではなく、地球社会の一員として行動する。核ゼロ訴訟は、太平洋の島国の尊厳と誇りを懸けた行動であることが、その言葉から伝わってきた。

 「核問題と気候変動は、ともに一国ではどうすることもできない、地球規模の問題である。国益とかの狭い視野ではどうにもならない。人類普遍の利益を求めてわれわれは行動する」。国益をはるかに超える「広角レンズ」を、トニーさんは持っていた。(明星大准教授=東京都)

(2017年11月28日朝刊掲載)

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