×

社説・コラム

緑地帯 マーシャル諸島に学ぶ 竹峰誠一郎 <7>

 核実験場とされたビキニ環礁の人々は、一連の核実験が始まる前の1946年3月に島を離れることを強いられたため、毎年3月に移住先で「ビキニデー」の式典を開催する。「私たちの島は沈むかもしれない」。71年目のことし、語られていたことである。核実験で故郷を追われた人々は現在、海面上昇による脅威にも直面しているのである。

 マーシャル諸島に山はなく、平均海抜はわずか2メートルにすぎない。トニー・デブルムさんは外相として、小さな国が直面する焦眉の問題に、国際社会の関心をどう引きつけていったのか。

 まず、海面上昇の影響を真っ先に受ける世界の島国との連携を強化した。「小島嶼(とうしょ)国連合」議長として、気候変動による損失と被害を直視するよう世界に訴えた。さらに欧州連合(EU)と連携し、新たな連合体「高い野心同盟」を結成、2015年パリ郊外で開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)を迎えた。

 トニーさんは一躍、同気候変動会議の鍵を握る人物となった。「産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑え、さらに1・5度未満になるよう努力する」と踏み込んだ「パリ協定」を、米国、中国、日本をも巻き込み、全会一致で誕生させる立役者となったのだ。小さな国でも世界を動かせることを、トニーさんは教えてくれる。

 「核から気候変動へと、問題は転換されたわけではない」と、トニーさんは語った。マーシャル諸島にとって核と気候変動は、ともに生存を根底から脅かす、地続きの問題なのである。(明星大准教授=東京都)

(2017年11月29日朝刊掲載)

年別アーカイブ