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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 艦載機飛来 <2> 変わる街 「共存」進む

軍事拠点 標的の懸念

 米空母艦載機部隊の主力、FA18スーパーホーネット戦闘攻撃機が米軍岩国基地(岩国市)へ移転した28日の夕方。基地の西約3キロにある愛宕山地区に整備された野球場「キズナスタジアム」周辺で、真新しい遊具で遊ぶ子どもの歓声が響いていた。

 「芝生だから走り回っても安心。親にとってはありがたい」。今月初旬のオープン後、週1回は来ているという同市旭町の会社員徳富俊則さん(29)は、4歳と2歳の息子を見やった。その横を、ウオーキングに汗を流す外国人の男女が笑顔で通り過ぎた。

 在日米軍再編に伴う艦載機移転で、極東最大級の軍事拠点と化す岩国基地。米軍人約1700人、軍属約600人、家族約1500人の計約3800人も岩国へ移り、米軍関係者は1万人を超える。市人口の1割弱を占める数だ。その受け入れへ、基地の街も大きく姿を変えている。

 愛宕山地区の野球場エリアもその一つだ。4日、国内2例目となる市民と米軍の共同使用が始まった。「日米友好のシンボル」「同盟の象徴」―。同市の福田良彦市長と基地のリチャード・ファースト司令官は同日の式典で強調した。つち音が響く隣接エリアには来年、陸上競技場も完成する。

 野球場から北側に5分ほど歩くと、「Atago Hills(アタゴ ヒルズ)」と表示されたプレートが目に入る。7月末に完成した全262戸の米軍家族住宅エリアの南ゲート。反対の北ゲート前にある交通情報の電光掲示板には今月から英語表記も加わり、飲酒運転防止などを呼び掛ける。

 地元経済界は艦載機移転を商機と捉える。岩国商工会議所は8月、基地に関係する業務受注を後押しする「米軍ビジネスサポートセンター」を開設した。「地域振興の起爆剤に」。長野寿会頭は基地人口の増加に期待を込める。

 一方、フェンスに囲まれた基地内部では、艦載機移転に伴う機能強化が着々と進む。「西太平洋航空機整備センター」の主要機能が厚木基地(神奈川県)から移り、高度な整備を担う格納庫が9月に稼働。同センター岩国分遣隊長のデヴン・コリガン海軍少佐は「即応態勢が高まり、地域の抑止力に貢献する」と話す。

 北朝鮮は、こうした日米の動きをけん制するように挑発行動を続ける。今年に入って弾道ミサイルを相次ぎ発射し、同国側は「在日米軍基地への攻撃訓練」とも報じた。

 緊張の続く北朝鮮情勢を受け、米国外で初めて岩国に配備されたF35Bステルス戦闘機は8、9月、航空自衛隊や韓国軍と訓練。艦載機を載せる空母ロナルド・レーガンも今月、日本周辺海域で海上自衛隊との演習に参加した。今後、岩国基地が北朝鮮有事の際に重要な軍事拠点となることを意味する。

 北朝鮮は29日未明、9月15日以来となる弾道ミサイルを発射した。この日、岩国基地を離着陸する軍用機の数に特段の変化は見られなかった。ただフェンスの外側から、実情はうかがい知れない。

 「岩国基地が標的になるのでは」。市内で1歳の次男と買い物中だった同市の主婦(37)は不安を打ち明けた。基地の街は、変貌の先への期待と不安に揺れている。(松本恭治)

(2017年11月30日朝刊掲載)

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