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社説・コラム

社説 北朝鮮ミサイル発射 核による威嚇 破滅招く

 不気味な沈黙はきのう未明、突如として破られた。北朝鮮が日本海に向け、約2カ月半ぶりに弾道ミサイルを発射した。

 米国によるテロ支援国家再指定に手詰まり感があるにせよ、国際社会は圧力強化路線を強めている。これに対抗して、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は「一歩も引かない」姿勢を示したつもりだろう。だがあまりに愚かな示威行為で、断じて許されない。

 青森県の西方、日本の排他的経済水域(EEZ)に着水したのは、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられる。米全土を射程に入れ、大型の核弾頭も搭載できると、北朝鮮はきのう政府声明で誇ってみせた。

 核ミサイルが本当に完成したかは怪しい。ただ軍事的脅威が高まったのは確かで、異例ともいえる未明の発射で奇襲能力をアピールしたのも不気味だ。

 米国との「力の均衡」を主張する北朝鮮は核保有国として、超大国と対等に渡り合いたいのだろう。しかし、こうした挑発行動が圧力強化しかもたらさないことを金氏は直視すべきだ。

 「対処する。真剣な対応は変わらない」とトランプ米大統領はきのう、最大限の圧力をかけて解決を目指す決意を示した。軍事行動の可能性を排除せず、米国や同盟国が脅かされたら北朝鮮を「完全破壊する」と国連総会で演説したトランプ氏だ。米朝の緊迫度は、より深刻な段階に入っていくのだろうか。

 北海道上空を通過させた前回の発射は9月15日だった。それ以降、鳴りを潜めていた北朝鮮の狙いはどこにあるのか。さまざまな臆測が飛び交っていた。

 ちょうど金委員長の工場視察が盛んになったことから厳しい国連制裁下、当面は経済対策に専念するとの見方もあった。ただ、これは楽観論だろう。北朝鮮の本当の狙いは中国共産党大会やトランプ氏のアジア歴訪で、関係国がどう動くか見極めるつもりだったのではないか。

 締め付けが緩まらないことは、北朝鮮にすれば織り込み済みだったに違いない。実際、この間もエンジン燃焼実験など開発を続けていた。日本や韓国と合同軍事演習を重ねた米原子力空母が朝鮮半島周辺から離れたタイミングを見計らい、発射に踏み切った可能性がある。

 北朝鮮は来年、建国70年を迎える。核開発の完成を宣言するとの見方が、韓国内にはあるようだ。今回のミサイル発射もあり、気掛かりなのは関係国の間で「北朝鮮への先制攻撃もやむなし」との極論が広がりかねないことだ。

 折しも、きのう被爆地広島で国連の軍縮会議が始まった。松井一実広島市長は北朝鮮を批判する一方、各国の政府関係者に「冷静な議論をお願いしたい」と求めた。軍事行動や核の発射ボタンが押される事態になれば北朝鮮のみならず、世界の破滅につながりかねない。被爆地の訴えに耳を傾けてほしい。

 きょう、国連安全保障理事会の緊急会合が開かれる。制裁強化を求める日米と、対話を前提とする中国やロシア、韓国には温度差がある。立場の違いを可能な限り最小化するには、原点に立ち返って「対話と圧力」の並行を打ち出すより他に道はない。経済制裁の抜け穴をしっかりふさぎ、対話の窓口は広く開けておく。国際協調の真価が今こそ問われている。

(2017年11月30日朝刊掲載)

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