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社説・コラム

『記者縦横』 改憲論議 8時15分胸に

■東京支社 武内宏介

 8時15分を指して壊れた時計のオブジェが東京都杉並区の小さな公園にあることはこの夏、東京へ赴任して知った。江田島市出身の漆芸家六角紫水の孫で、建築家の六角鬼丈さん(76)が25年前に造った。公園入り口の地面に楕円(だえん)にゆがんだ文字盤を描き、人がくぐれるほど大きなフレームをその上に掲げる。題は「時の門」である。

 広島に原爆が落とされたとき東京も揺れた、との架空の設定という。「テーマは時間。日本人が記憶すべきものは原爆しかないと思った」と六角さん。「門をくぐった先の『未来』は、作品を見た人が考えてくれたらいい」と語る。

 あの日から72年が過ぎた「未来」のいま。10月の衆院選で大勝した自民党は、憲法改正への意欲を強めている。柱の一つが9条への自衛隊明記である。

 党の憲法改正推進本部長に就いた細田博之氏(島根1区)は「70年以上改正されていない」「北朝鮮情勢など環境変化がある」と改憲の必要性を強調する。時期についても「国民投票法も整い最適では」と言う。

 現憲法をつくる際、当時の幣原喜重郎首相は枢密院で、戦争放棄を定めた9条の草案を「正義に基づく正しい道」と説明した。また、原爆と、それ以上の新兵器出現の可能性に言及した上で、将来的に他国も「戦争の放棄をしみじみと考える」だろうと述べている。

 改憲論議が進むいま、私たちは9条がどうあるべきかを考える際に「8時15分」を何度でも思い返す必要があると思っている。

(2017年12月1日朝刊掲載)

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