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社説・コラム

『潮流』 戦争をなくす知恵

■ヒロシマ平和メディアセンター長 岩崎誠

 先月末に広島市で開かれた国連軍縮会議で、やはり心に残ったのが広島県被団協理事長、坪井直さんの報告だ。92歳の高齢を押して車いすで登壇し、被爆体験を交えて核兵器の非人道性を訴えた。そして声を振り絞った。

 「もう一歩、考えなくてはならない。それは何か。戦争ですよ。原爆の戦争はいかんが、ほかの戦争はいい。それは人類の知恵ではない。戦争をなくす知恵はないのか」

 大きな拍手を送った国内外の軍縮関係者は、切なる思いをどう受け止めたのだろう。朝鮮半島の緊張を持ち出すまでもなく、戦争の火種となる争いは地球上で絶えない。

 「人はなぜ戦うのか」(中公文庫)を手に取った。旧知の考古学者で、国立歴史民俗博物館教授の松木武彦さんが16年前、岡山大時代に出した本が最近、文庫になった。いにしえからの戦いを遺跡や遺物で検証し、現代の戦争を防ぐすべを考える―。大胆な発想に共感し、すぐインタビューに赴いたのを思い出す。

 縄文時代には戦争のなかった日本列島。富の格差が生じた弥生時代に戦いの思想が外から持ち込まれる。だが戦国の世を経た江戸時代は平和が続く。こうした流れから松木さんは「戦争は本能によって起こるのではない」とみる。

 では戦争はなぜ起きるか。文化や歴史にすぐに優劣を付け、他者を見下して自分たちの利を主張する人々が社会を主導した時だという。戦争をなくせるかどうかは個人の知識や思考、感情にかかっているとした気鋭の考古学者の指摘は今読んでも膝を打つ。

 一方で文庫版の後書きに心が重くなる。「16年前よりもはるかに深刻かつ現実的に、このメッセージを響きわたらせねばならぬ社会へと後退している」。著者の危機感は、坪井さんの言葉と重なるはずだ。戦争を食い止める知恵を今こそ絞りたい。あすは太平洋戦争が始まった日である。

(2017年12月7日朝刊掲載)

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