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社説・コラム

ICAN平和賞 被爆者運動の位置付けは 広島市立大広島平和研究所教授 直野章子氏に聞く

長く厳しい前史 実る

 核兵器禁止条約の制定に貢献し、今年のノーベル平和賞を10日に受ける非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))。日本の被爆者運動の視点からどうみるか。運動に詳しい広島市立大広島平和研究所の直野章子教授(社会学)に聞いた。(岡田浩平)

  ―被爆者の運動は、国際的な反核運動にどんな影響を与えたと思いますか。
 日本被団協の結成宣言にあるように、被爆者たちは自らと人類の危機を救うため、当事者として立ち上がった。1960年代から、特に80年代以降に海外へ行っている。そこで日本の戦争責任の問題を突き付けられ、受け止めつつ、再び被爆者をつくらないという信念は変わらなかった。

 ここ10年、ピースボート(東京)を中心に被爆者を海外へ派遣する地道で重要な取り組みはあるが、国際運動の長く厳しい前史があるのを忘れてほしくない。

  ―運動は自国政府にも向けられましたね。
 核兵器廃絶は運動の2本柱の一つで、もう一つは原爆被害に対する国の償いだ。被爆者は自らの手で原爆被害を明らかにし、政府の戦争遂行責任を追及した。こんな被害はいくら戦争でも許せない、「まどえ(元に戻せ、償え)」と。それが再発防止になると位置付けた。

 自分たちのような目に誰も遭わせたくないというのは、自動的に到達できる思想ではない。つくり上げたのであり、そこはもっと評価されるべきだ。海外でも核兵器の廃絶とともに、運動として責任を追及してきたと伝えれば、より共感されるだろう。

  ―今回の受賞を、私たちはどう生かすべきでしょうか。
 私たちが当事者意識を持たないといけない。ICANも、核兵器を環境や人道の問題に重ね合わせた若い人たちが、当事者として取り組んだのではないか。これまでは被爆者の体験によりかかった平和の訴えだった。そうではなく、当事者として、よりよく生きる、子どもたちの未来を守る、など、もう少しわがこととしてアプローチできると思う。

(2017年12月8日朝刊掲載)

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