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社説・コラム

天風録 『言葉も暦も違う街』

 ノーベル平和賞受賞の翌年に暗殺された政治家がいる。イスラエルの元首相、ラビン氏だ。パレスチナの指導者、アラファト氏とは肝胆相照らす仲。四半世紀前、パレスチナの暫定自治を認めるオスロ合意には2人がサインした▲ラビン氏は口下手ながら言葉を選び、受賞スピーチでは祖国のため死した全ての兵にこうべを垂れた。私たちが亡くした愛する者たちに、そしてかつての敵たちに、敬意を表したいと思います―。しかし、自国の青年の凶弾に倒れることになるとは▲亡き両巨頭が握手し、仲介した当時の米大統領クリントン氏が両手を広げて喜ぶ写真がある。そのオスロ合意も、今となっては夢か、幻か▲当代のトランプ氏はエルサレムをイスラエルの首都と認め、大使館を移すという。三つの一神教の聖地エルサレムの帰属は米国の一存で決められないはずだが、パンドラの箱を開けてしまった。もう仲介役にはなれぬ▲エルサレムには街を統べる「ハーモニー」がないと、留学経験のある中東研究者笈川(おいかわ)博一氏は著書に記す。通りを一つ隔てると言葉も暦も違う。私は私、君は君、ならそれもいい。憎悪のハーモニーが高まらぬことを願うばかりである。

(2017年12月9日朝刊掲載)

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