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社説・コラム

社説 伊方原発差し止め決定 リスクの想定 考え直せ

 火山大国の日本で原発を稼働する限り、絶対的な安全はあり得ない。そのことを、私たちは改めて認識せねばならない。

 広島高裁がきのう、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転を禁じる決定を下した。広島市と松山市の住民が運転差し止めの仮処分を申し立てた即時抗告審である。東京電力福島第1原発の事故後、原発の運転を禁じた司法判断は、高裁では初めてであり、画期的だ。

 決定は、約130キロ離れた阿蘇山(熊本県)が過去最大級の噴火をした場合、原発が影響を受けないとはいえないとした。火山噴火を含めた多様なリスクを想定し、万が一であっても住民に危険が及ぶ恐れがあれば、原発を運転すべきではないということだろう。評価したい。

 伊方原発は、瀬戸内海を挟んで広島市から約100キロの距離にある。そのすぐ近くの海底には、国内最大規模の活断層「中央構造線断層帯」が走る。地震による過酷事故や、その場合の瀬戸内海への影響などがかねて不安視されてきた。

 今回の決定は、原子力規制委員会の新規制基準に基づき、四電が示した最大の揺れや津波の想定の合理性は認めたものの、火山噴火の影響評価を問題視している。

 事故後、規制委は安全性審査の内規「火山影響評価ガイド」を定めた。活動の可能性が否定できない火山が原発から160キロ圏内にある場合、火砕流や火山灰などの影響を評価して、必要に応じた対策を求めている。

 規制委は、阿蘇山が大規模な噴火をした際でも、火砕流が原発に到達する可能性は十分に小さいとみて、2015年に3号機の再稼働に道を開いた。

 高裁が、過去最大規模として検討したのは約9万年前の噴火である。つまり何万年かに1度であってもリスクがある以上は被害を前提にすべきだという考えに立っているといえよう。

 決定は、四電による火山灰や火砕流の想定は過少とし、伊方原発の立地は不適で、認められないとした。その上で規制委の判断を「不合理である」と断じ、「住民らの生命、身体に対する具体的な危険の恐れ」を認めている。原発再稼働の動きが加速する中、周辺の住民たちが抱く不安を、司法が受け止めたのだろう。

 福島の事故を受け、安全対策に「想定外」があってはならないと、国も電力会社も胸に刻んだはずである。ひとたび原発事故が起これば被害は甚大なだけに、わずかな確率であってもリスクには対応策を講じなくてはならない。人命を第一に考えれば当然のことである。

 伊方原発3号機は定期検査のため10月から停止中で、四電は来年1月に発送電を再開し、2月の営業運転を目指していた。しかし今後決定を覆す司法判断が出るか、決定が差し止め期間とした来年9月末を過ぎるまでは動かすことができない。

 原発再稼働にかじを切った政府や電力会社にとっては大きな打撃だろう。四電は異議申し立ての手続きを取る方針を明らかにしている。

 だが今すべきは、再稼働を急ぐことではない。決定に誠実に向き合うことだ。地震や火山噴火がしばしば起こるこの国で、原発を推し進める政策を問い直す機会にしてほしい。

(2017年12月14日朝刊掲載)

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