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社説・コラム

『想』 上西千波 LOVE&PEACE

 まだ日中蒸し暑い、夏の終わりの米ニューヨーク。オープンカフェの中にまで入り込んでくる激しいスコールが、街の空気を浄化して行くようでした。お天気なのに雨が降り注ぐ、この季節らしい光景が目の前に広がっています。昨年9月、私はアルバム「LOVE&PEACE」のレコーディングのため、ブルックリンに滞在していました。

 スケジュールの合間を縫って訪れたNATIONAL SEPTEMBER 11 MEMORIAL MUSEUM、グラウンドゼロ。米中枢同時テロ事件の現場に建てられた追悼施設です。

 その帰りの地下鉄に乗ろうとした時、マンハッタンで爆弾テロが起き、多くの人々が負傷しました。事件から15年の式典が終わってまだ1週間もたっていません。世界中の人々がここを訪れ、祈りをささげているというのに…。

 “平和の大切さを音楽にのせて届ける”。私がピースソングを歌うようになるまでに、さまざまなきっかけがありました。広島県から「ひろしま平和発信コンサート」を依頼され、1年間で県内7地域を訪れました。ジャズの長い歴史の中で作られた、自由を求める曲、平和を願う曲を、幅広い年代に伝わるように話をしながら、子どもたちと歌いました。

 世界遺産でもある厳島(廿日市市)の大自然の中で歌うこともありました。通り過ぎる柔らかな風、鳥のさえずり、穏やかに押し寄せる波の音、その地球の音に耳を澄ませると、季節の移り変わりや朝が来て夜が来ること、日常の幸せを感じます。そして、それが何よりも平和なのだと気付かされます。美しい自然と、穏やかな日々は先人が残してくれた宝物。それを、未来を担う子どもたちへつなぐ大切さをかみしめ、2枚のアルバムにメッセージを託しました。

 また新たな季節が巡ってきます。来年1月7日には郷里である広島市の中区紙屋町「Speak Low」でライブを開きます。よろしければお出掛けください。(ジャズシンガー)

(2017年12月20日セレクト掲載)

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