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連載・特集

2017中国地方この1年 朝鮮通信使 交流史 「世界の記憶」に

 江戸時代の外交使節、朝鮮通信使をもてなした福山市鞆町の福禅寺対潮楼。東方の窓からは、当時とほとんど変わらない瀬戸内海の美しい光景が広がる。ことし、通信使の高官が鞆の眺望をたたえて残した墨書に注目が集まった。

地域の宝 再認識

 日本と韓国の民間団体が共同申請していた「朝鮮通信使に関する記録」は10月末、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)に登録された。両国の外交資料333点の中に、福禅寺所蔵の「日東第一形勝」「対潮楼」の大書も入った。

 「先人たちが大切に残してきた貴重な資料。しっかりと引き継ぎたい」。住職の山川龍舟さん(68)は、登録を喜ぶとともに、気を引き締める。鞆の歴史の一幕を語りかける大書は約300年を経て、汚れや傷みが目立つからだ。

 福禅寺は12月、原本の修復とレプリカの作製を市教委と協力して進めるため、インターネットで資金を募るクラウドファンディングを始めた。約200年前にも書が朽ちるのを恐れた福山藩などが木額を作っている。世界の記憶への登録は再び、通信使の遺墨が地域の宝という認識を強めた。

観光振興に期待

 通信使はソウルを出発し、釜山から海路で対馬(長崎県)や瀬戸内海を通って大阪まで航行、江戸に向かった。中国地方所在の資料が世界の記憶に登録されるのは初めてで、通信使が立ち寄った市町では観光面の効果に期待が高まる。当時の船着き場「雁木(がんぎ)」が残り、通信使をもてなした料理を再現展示する呉市下蒲刈町では観光客が増え始めた。

 同町からは、通信使の船団を描いた絵巻物「朝鮮人来朝覚備前御馳走船行烈図(ごちそうせんぎょうれつず)」(松濤(しょうとう)園所蔵)が登録。朝鮮通信使の再現行列など町を挙げた継承活動の張り合いにもなるという。地元のボランティアガイド船田孝興さん(76)は「ボランティアや行政が力を合わせて盛り上げる」と意気込む。

 絵図「朝鮮通信使船上関来航図」が登録された山口県上関町も、イベントでの原画公開や登録を祝う横断幕の掲示でPRする。来年11月には同町で初めて、ゆかりの自治体関係者が集う全国交流大会がある。実行委員会の山村泰志委員長(68)は「観光振興の起爆剤。好機を生かせるようにしたい」と準備を進める。

 約200年続いた通信使は、隣国間での平和外交の歴史でもある。韓国の大学生たちが11月末に通信使の寄港地を巡るなど、新たな交流の兆しもみられる。通信使関連イベントに出演してきた在日韓国人4世の打楽器奏者高昌大(コ・チャンデ)さん(29)=広島市佐伯区=は願う。「民間の文化交流がもっと盛んになってほしい。両国のつながりが深まれば」(衣川圭、今井裕希、堀晋也)

(2017年12月22日朝刊掲載)

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