社説 自民改憲論点 やはり「日程ありき」か
17年12月22日
自民党の憲法改正推進本部が、憲法改正を目指す4項目について論点を整理し、公表した。焦点の9条は、1項と2項を維持し自衛隊の存在を明記する加憲案と、戦力不保持をうたう2項を削除し、自衛隊の目的・性格を明確化する抜本改正案を併記する形になった。
当初は年内にも改憲条文案を策定しようとしていた。しかし9条をどう改正するかなどで意見の隔たりが大きく、基本的な意見集約ができなかった。
それでも自民党は今回まとめた論点をたたき台として示し、各党を巻き込んだ改憲論議を本格的に始めるつもりのようだ。だが、党内ですらまとまっていないものを強引に進めるなら、憲法改正自体を目的にしていると批判されても仕方あるまい。
首相が、憲法に自衛隊を明記する考えを突然表明したのは5月の憲法記念日のことだ。「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と意欲を示した。これを受け、自民党内で改憲論議が一気に活発化した。
だが、なぜ今、9条を改正する必要があるのか。はっきりしない。推進本部の論点整理でも「自衛隊がわが国の独立、国の平和と安全、国民の生命と財産を守る上で必要不可欠の存在であるとの見解に相違なかった」と記述した。主張そのものは否定しないが、説明不足だ。
論点整理では、9条に加え、緊急事態条項の創設、参院選の「合区」解消、教育無償化・充実強化―の改正を巡る党内論議を集約した。自民党が本気で改憲論議を進めるつもりなら、なぜこの4項目に絞ったのかを分かりやすく国民に説明することが出発点になるだろう。
有事や大規模災害時の緊急事態への対応を巡っても、国会議員の任期延長を認める案と、政府への権限集中を含めた本格的な新設案を併記する形にとどまった。この点でも議論は集約されていない。北朝鮮問題を「国難」とあおって、衆院議員が全員不在となるリスクを省みず、解散総選挙に打って出たこととの整合性をどう説明するのか。
教育では、「無償化」を明記せず、環境整備を国の努力義務とする規定を盛り込む方向でまとまった。努力規定ならば予算措置で事足れる。憲法を改正する必要性は乏しかろう。
参院の「合区」解消では、改選ごとに各都道府県から少なくとも1人以上選出できる案でおおむね一致した。本来は、衆参両院の関係と役割を議論するのが筋だろう。重要な議論を置き去りにしては説得力を欠く。
論点が示された改憲4項目全てで疑問点が目立つ。連立与党を組む公明党からも、山口那津男代表が「国民の認識は到底合意に至っていない」と述べるなど、慎重な意見が相次ぐ。
野党第1党の立憲民主党の枝野幸男代表も「他の課題より優先度が高いとは思えない」と批判するなど反発も強いはずだ。
首相は先日の講演で「スケジュールありきではない」としながらも「20年を日本が生まれ変わる年としたい。新時代の幕開けに向け、憲法の議論を深めたい」と期待感をにじませた。やはり「日程ありき」で進めるつもりなのか疑問を感じる。
首相は、各党が具体案を持ち寄るよう改めて呼び掛けた。だが「20年」にこだわるなら、国民の理解は得られまい。
(2017年12月22日朝刊掲載)
当初は年内にも改憲条文案を策定しようとしていた。しかし9条をどう改正するかなどで意見の隔たりが大きく、基本的な意見集約ができなかった。
それでも自民党は今回まとめた論点をたたき台として示し、各党を巻き込んだ改憲論議を本格的に始めるつもりのようだ。だが、党内ですらまとまっていないものを強引に進めるなら、憲法改正自体を目的にしていると批判されても仕方あるまい。
首相が、憲法に自衛隊を明記する考えを突然表明したのは5月の憲法記念日のことだ。「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と意欲を示した。これを受け、自民党内で改憲論議が一気に活発化した。
だが、なぜ今、9条を改正する必要があるのか。はっきりしない。推進本部の論点整理でも「自衛隊がわが国の独立、国の平和と安全、国民の生命と財産を守る上で必要不可欠の存在であるとの見解に相違なかった」と記述した。主張そのものは否定しないが、説明不足だ。
論点整理では、9条に加え、緊急事態条項の創設、参院選の「合区」解消、教育無償化・充実強化―の改正を巡る党内論議を集約した。自民党が本気で改憲論議を進めるつもりなら、なぜこの4項目に絞ったのかを分かりやすく国民に説明することが出発点になるだろう。
有事や大規模災害時の緊急事態への対応を巡っても、国会議員の任期延長を認める案と、政府への権限集中を含めた本格的な新設案を併記する形にとどまった。この点でも議論は集約されていない。北朝鮮問題を「国難」とあおって、衆院議員が全員不在となるリスクを省みず、解散総選挙に打って出たこととの整合性をどう説明するのか。
教育では、「無償化」を明記せず、環境整備を国の努力義務とする規定を盛り込む方向でまとまった。努力規定ならば予算措置で事足れる。憲法を改正する必要性は乏しかろう。
参院の「合区」解消では、改選ごとに各都道府県から少なくとも1人以上選出できる案でおおむね一致した。本来は、衆参両院の関係と役割を議論するのが筋だろう。重要な議論を置き去りにしては説得力を欠く。
論点が示された改憲4項目全てで疑問点が目立つ。連立与党を組む公明党からも、山口那津男代表が「国民の認識は到底合意に至っていない」と述べるなど、慎重な意見が相次ぐ。
野党第1党の立憲民主党の枝野幸男代表も「他の課題より優先度が高いとは思えない」と批判するなど反発も強いはずだ。
首相は先日の講演で「スケジュールありきではない」としながらも「20年を日本が生まれ変わる年としたい。新時代の幕開けに向け、憲法の議論を深めたい」と期待感をにじませた。やはり「日程ありき」で進めるつもりなのか疑問を感じる。
首相は、各党が具体案を持ち寄るよう改めて呼び掛けた。だが「20年」にこだわるなら、国民の理解は得られまい。
(2017年12月22日朝刊掲載)