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社説・コラム

社説 トランプ氏の安保戦略 「力」一辺倒では危うい

 トランプ米大統領が政権初の「国家安全保障戦略」を公表した。国際社会に背を向ける「米国第一主義」をあらためて鮮明にしたといえる。

 米国の安全保障政策を包括的に示した重要な文書として位置づけた。影響は大きいだろう。

 今後、これを基礎にして発表される核戦略の指針「核体制の見直し」や対テロ戦略などを注視する必要がある。

 四つの柱として、米国民と米国土の防衛▽米国の繁栄推進▽「力による平和」の堅持▽米国の影響力拡大―を挙げている。世界最強の軍事力に加え、経済成長力を武器として増強し、米国の優位性を守るのだと強調している。

 さらに、中国やロシアを、国際秩序の変更を企てる「修正主義国家」とし、イランと北朝鮮を「ならず者」と名指しした。敵対する国とも外交を通じて信頼醸成することを目指した前のオバマ政権の政策からは、大きな転換である。

 核兵器についても「平和と安定を守るための戦略の基礎」と高く位置づけ、さらなる近代化をうたう。被爆地が望む「核なき世界」の理想を捨て去ったかのようだ。核兵器禁止条約が7月に採択されるなどした世界の流れにも逆行している。

 トランプ氏は、「力」で何でも抑え込めると考えているのかもしれない。しかし力任せの戦略では各方面の反発を招き、かえって世界の緊張を高めるのではないか。中ロからは早速、「時代遅れ」「帝国主義」などと批判の声が上がっている。

 無論、南シナ海の軍事基地化を進める中国も、クリミアを併合したロシアも、「力」を前面に押し出して国益増強を図っている。しかしそれに乗じて、民主主義国家である米国までもが中ロを「競争相手」とし、力を誇示すれば、国際情勢を危うくするのは目に見えている。

 核・ミサイル開発を続け、挑発を繰り返す北朝鮮に対処するには、中国やロシアとの協力が不可欠である。本来は、中ロのような北朝鮮に影響力を持つ国と足並みをそろえるための環境をつくるのが、米国の役割のはずだ。敵視してしまえば、包囲網を築くのも難しくなる。

 トランプ氏は「世界史の常は力を求める競争」と断言し、国際社会が互いに関与して平和を創り出す冷戦後の国際社会の基調は「間違いだった」とまで述べている。国内の限られた支持者を意識した内向きな姿勢だ。

 これまでの政権は、同盟国防衛の義務も強調していたが、今回はその印象が薄まった。むしろ共通の脅威に対処するため、同盟国に「貢献せよ」と責任分担を求めている。日本も例外ではなかろう。

 それだけに日本政府は、ただ米国に追随していてはいけまい。アジア地域の安定と平和のためには、さまざまな国との幅広い外交・安保協力が一層必要になる。来年は、防衛大綱の見直しを控えている。トランプ政権の新戦略が国際社会や国民生活に及ぼす影響を、しっかり見極めることが欠かせない。

 同盟国として、米国が国際協調路線に立ち戻るよう粘り強く説得すべきだ。トランプ氏の言動や政策に、困惑している国は多いはずだ。そうした国々と手をつなぎ、力によらない平和構築を進めなければならない。

(2017年12月26日朝刊掲載)

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