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中電 原発地元への寄付 継続へ 赤字下 問われるコスト

 赤字でコスト削減が最重要課題となる中国電力が、原発の立地自治体に寄付を続ける姿勢を示している。水面下での億円単位のやりとりは、これまでも「自治体との関係をゆがめる」と指摘されてきた。値上げ回避へ最大限の企業努力が求められる中、不透明な慣行へ消費者の目は厳しさを増している。(東海右佐衛門直柄)

 「立地自治体に寄付をするのは地域の振興計画に協力するため」。中電の苅田知英社長は10月31日の会見でこう強調。厳しい財務状況の中、これまで通り、地元自治体の意向を踏まえて寄付を続ける姿勢を示した。

 これまでの寄付は判明分だけで上関原発の計画がある山口県上関町に24億円。島根原発(松江市)の3号機増設計画では、島根県旧鹿島町と旧島根町へ少なくとも約52億円の匿名寄付があり、ほとんど中電からとみられる。ことし8月には、アワビの種苗育成へ協力するとして、松江市への計2億4千万円の寄付も判明した。

地域貢献の一環

 中電は「地域貢献のため。円滑な電気事業には地域とのつながりが重要」とする。しかし広島修道大の羅星仁(ナソンイン)教授(環境政策学)は「電力会社は多額の寄付により、自治体が原発依存型の地域経済となる仕組みをつくり上げてきた」と指摘する。

 実際、地元では寄付を前提に施設が運営されている。鹿島・島根栽培漁業振興センターの運営費として年3千万円の寄付を受ける松江市水産振興課は「電力会社から多額の寄付金をもらうのが問題との認識はあるが、寄付がなければセンターは運営できない」。来年度以降も寄付を受ける意向でいる。

料金に一部反映

 中電は原発停止により、本年度の中間決算が赤字に転落した。電気料金値上げを避けるため「あらゆる面で効率化に努める」(苅田社長)環境にある。

 寄付金は総括原価方式と呼ばれる仕組みにより、電気料金のコストの一部に反映される。巨額の寄付はこの仕組みに支えられてきた。だが、羅教授は「不透明な寄付金が、電気料金の原価に入る仕組みが問題だ」と訴える。

 寄付金について、中電は金額や相手を自主的には公表していない。苅田社長は「寄付は基本は篤志で行うもの。公表すべきでない」と説明する。電気料金を負担する消費者は、億円単位の資金がどんな目的でいつ、誰に支払われたのか分からない。

 情報公開の姿勢には、地元側からも異論が出ている。島根県の溝口善兵衛知事は「寄付は電力コストの一部」と指摘。原則公開すべきだと話す。

 東日本大震災後、電力会社のコスト意識への批判が強まったことを受け、国は総括原価方式の撤廃を検討。東京電力は4月、寄付の「原則廃止」を打ち出した。取り巻く環境が激変する中、寄付の是非が問われている。

◆記者の目◆

全ての費用 透明化必要

 「原発は経済合理性が高い」と電力会社はアピールする。しかし、自治体への多額の寄付や、国からの交付金などを含めると「本当に割安なのか不透明」との指摘も根強い。原発の信頼性が揺らぎ、将来の電源構成の議論が進む今、電力会社には、寄付金を含めた全コストを透明化する姿勢が求められる。

総括原価方式
 電力会社が電気料金を決めるのに使う算定方式。電気事業法に基づく。燃料費や人件費のほか寄付金なども含めた「原価」のほぼ全額を、利益を上乗せした上で料金に転嫁する。電力の安定供給のため利益確保が必要との考えに基づく。原価が過大に見積もられているとの批判があり、国は撤廃を検討している。

(2012年11月2日朝刊掲載)

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