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連載・特集

[イワクニ 地域と米軍基地] 動きだす巨大軍事拠点

 在日米軍再編に伴う米空母艦載機移転で、極東最大級の軍事拠点へ変貌する米軍岩国基地(岩国市)。フェンスに囲まれたその内部は、2010年の沖合滑走路の運用を転機に機能面でも大きく姿を変えた。旧日本海軍の飛行場として誕生した位置付けも時代とともに変遷。今年5月ごろまでとされる移転完了で所属機は約120機に倍増し、米軍が戦略上描く役割は格段に増す。イワクニのこれまでと今を見つめ、将来の展望を探る。(松本恭治、馬上稔子、和多正憲)

艦載機の飛行 日常に

 米海軍の主力戦闘攻撃機、FA18スーパーホーネットが爆音を響かせて次々と飛び立つと、入れ替わるように米海兵隊の従来型ホーネットが着陸する。米軍厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機移転が本格化した2017年11月以降、岩国基地では日常となった光景だ。

 在日米軍再編は、冷戦終結や米中枢同時テロを受けた世界規模の米軍合理化の一環。その中に厚木から岩国への艦載機移転も盛り込まれた。騒音軽減と事故回避を目的に「岩国市民の悲願」と呼ばれた滑走路沖合移設が、皮肉にも新たなリスクを招く「呼び水」となった。

 06年5月、日米両政府は艦載機の岩国移転を含む在日米軍再編のロードマップに合意する。当初「14年まで」だった移転時期は、部隊を受け入れる住宅整備の遅れなどから「17年ごろまで」に延期された。17年1月、国は移転スケジュールや機数を岩国市や山口県に伝達。市や県は同年6月に受け入れを表明し、日米合意から11年を経て移転が現実となった。

 岩国基地関連の米軍再編は、沖縄の負担軽減を目的としたKC130空中給油機の岩国移転と、海兵隊と基地を共同使用する海上自衛隊の一部部隊の厚木移転も含まれる。うち給油機は14年、15機が普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)から到着した。

 一方、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)は13年10月、人口減を懸念する地元に配慮して海自部隊の岩国残留に合意。この時の合意文書では、ステルス戦闘機F35の「日本国内への17年配備」も明記され、17年1月と11月、海兵隊仕様のF35B計16機が岩国へ配備された。

 艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)の恒常施設の選定では、国が馬毛島(鹿児島県)を候補地として購入方針を示している。しかし交渉は難航も伝えられ、土地購入後も施設完成までは10年程度かかる見通しだ。00年を最後に実施されていない岩国でのFCLPを懸念する声は根強い。

空母航空団司令部 新設へ

 岩国市中心部に近い臨海部に位置し、錦川河口の今津川と門前川に挟まれた三角州に広がる米軍岩国基地。滑走路移設事業で東側の沖合213ヘクタールが埋め立てられ、面積は約1.4倍の約790ヘクタールに広がった。米軍再編と関連工事も相まって基地内は一新された。

 新滑走路(長さ2440メートル)とともに、既存の米海兵隊飛行部隊は海側へ約1キロ移った。空母艦載機部隊とKC130空中給油機部隊、海上自衛隊飛行部隊とともに四つのブロックを構成。それぞれ格納庫や駐機場が整備され、4ブロックの中央付近に管制塔がそびえる。

 2017年9月、管制塔の西側で海兵隊機や空母艦載機の高度なメンテナンスを担う整備格納庫が稼働した。艦載機部隊のすぐ東側には、15年3月までに整備されたエンジンテスト用のハッシュハウス(減音施設)がある。反対の西側には、移転完了に合わせて厚木基地から移る第5空母航空団の司令部庁舎とみられる建物も確認できる。

 市街地に近い西側エリアには、コミュニティー地区が広がる。真新しい住宅が整然と並び、小中高校、映画館をはじめとする文教、娯楽施設、スーパー、病院などが集中。広大な「街」が形成されている。

 一方、基地の西約3キロに広がる愛宕山地区には「もう一つの基地」が誕生している。艦載機とともに移る米軍人たちのため国が整備した家族住宅エリアと運動施設エリアで、2月までに全施設が完成予定。約3800人が岩国へ移り、市の米軍関係者は1万人を超える。

視線の先 軍拡進む中国

軍事評論家・前田哲男氏に聞く

 米空母艦載機の岩国移転の狙いは何か―。冷戦終結後、中国の軍備拡張をにらむ米軍のアジア戦略について、軍事評論家の前田哲男氏(79)に聞いた。

 ―艦載機移転で岩国基地の米軍の戦略上の位置付けはどう変化しますか。
 2005年に日米合意した米軍再編の中間報告で、米軍と自衛隊の「日米一体化」のグランドデザインが示された。15年には日米防衛協力指針(ガイドライン)が改定され、平時から有事まで「切れ目のない」連携が盛り込まれた。岩国基地は、こうした新たな日米軍事力の融合に向けた動きの結集地といえる。

 大型艦船も着岸できる港を備えた米軍航空基地でもあり、地理的には海上自衛隊呉基地(呉市)や米軍弾薬庫も近い。日米で合同演習も進めやすい。朝鮮半島有事の際には、戦闘攻撃機が空中給油なしに空爆し、帰還できる距離だ。厚木基地(神奈川県)に艦載機を配備するより即応性が高い。

 ―再編では「同盟力の向上」とともに「負担軽減」も目的に掲げていました。
 一時的な厚木での飛行回数は減るかもしれない。だが、米軍は岩国と併用を続けるだろう。艦載機が所属する第7艦隊の空母が横須賀基地(同)を母港とする限り、厚木の重要性は変わらない。

 ―岩国側も今以上の機能強化を望んでいません。
 基地の返還や縮小でなく、拡張を進めた在日米軍基地は岩国くらいだ。これだけ新しく巨大な基地はない。米軍は今後も間違いなく活用する。訓練移転や暫定配備は増えるだろう。

 ―北朝鮮情勢が緊迫化する中、ミサイルの標的となる不安の声もあります。地元は巨大化する基地とどう向き合うべきでしょうか。
 標的リスクは当然ある。ただ、「北の脅威」は分かりやすいが表向きのもの。米国の視線は、軍拡が進む中国を向いている。当然、日米一体化が進めば、中国との軍事的緊張も高まる。安全保障とは、地域の平和をどう維持するかという問題。住民の暮らしを守る自治体も「防衛政策は国の専管事項」と丸投げしてはいけない。米軍基地が存在することで生じるリスクと得られる安全保障がある。住民は両方を理解した上で将来を選択するべきだ。

海兵隊機と海軍機 半々

 岩国基地の米軍の主な組織は、既存の海兵隊飛行部隊と海軍の空母艦載機部隊で構成される。海兵隊は、在日米海兵隊を統括する第3海兵遠征軍(司令部・沖縄県)の第1海兵航空団が主軸。同航空団の下に、普天間飛行場や米ハワイ州のカネオヘ・ベイ基地に駐留する複数の航空群があり、岩国の第12海兵航空群はFA18ホーネット戦闘攻撃機、ステルス戦闘機F35Bなどを運用している。

 2014年に新たに加わったのが、第152空中給油輸送中隊のKC130空中給油機部隊。これらの常駐部隊のほか、6カ月程度で他の基地へローテーション展開する部隊も配備されている。海兵隊の基地所属機は約60機。

 一方、米海軍は、空母ロナルド・レーガンを運用する第5空母航空団の部隊が移転を進めている。全9部隊のうち、ヘリコプター2部隊を除く7部隊計61機の配備が予定され、8割近い48機程度をFA18スーパーホーネットが占める。これまでに5部隊36機程度の移転が完了した。

<岩国基地を巡る主な動き>

1940年 旧日本海軍が防衛、訓練基地として運用開始
  45年 米軍機が岩国市や基地周辺を爆撃。終戦後、米海兵隊や英国、オース      トラリアなどの軍が進駐
  48年 英オーストラリア空軍基地に
  50年 朝鮮戦争勃発。国連軍として米空軍などが岩国基地から派遣
  52年 米空軍基地となる。民間空港として開港
  54年 米海軍基地となる
  57年 海上自衛隊が共同使用を開始
  58年 米海兵隊の航空施設となる
  62年 正式に「米海兵隊岩国基地」となる
  64年 民間航空の就航が休止
  65年 ベトナム戦争に米国が本格介入
  91年 湾岸戦争が始まり、岩国基地からも出撃
  97年 滑走路沖合移設工事に着工
2001年 米中枢同時テロが発生し、警戒態勢強化。アフガニスタン報復攻撃開      始
  03年 イラク戦争始まる
  06年 日米両政府が岩国への厚木基地の空母艦載機移転を含む米軍再編に最      終合意
  10年 沖合移設工事が完成し、新滑走路の運用開始
  12年 岩国錦帯橋空港が開港
  14年 KC130空中給油機の部隊が普天間飛行場から移転
  16年 オバマ米大統領(当時)が被爆地・広島訪問に先立ち、岩国基地で海      兵隊員たちを激励
  17年 ステルス戦闘機F35Bが岩国配備。基地の西約3キロにある愛宕山      地区に、米軍家族住宅や運動施設の一部の整備が完了。艦載機部隊の      移転が始まる

紙面編集・清水大慈

(2018年1月1日朝刊掲載)

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