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社説・コラム

社説 原発ゼロ法案 まず国会で議論尽くせ

 原子力発電所に頼らない社会を―。東京電力福島第1原発の事故以来、国民の多くが望んでいることではないか。発生から間もなく7年となるのを前に、原発ゼロを目指す法律を作る動きが目立っている。

 先週、小泉純一郎元首相が顧問を務める民間団体が、全原発の即時停止や再稼働・新増設の禁止を柱とする法案の骨子を発表した。大胆な内容である。

 「原発ゼロ」は、昨年10月の衆院選で多くの野党と与党の公明党が公約に盛り込んでいた。既に野党第1党の立憲民主党は2030年までの発電用原子炉の全廃を政府目標とする法案作りを進め、22日召集の通常国会に提出する方針だ。

 折しも政府は、14年に決めたエネルギー基本計画の見直しを進め、春をめどにまとめる予定だ。原発について、現行計画で「依存度を可能な限り低減させる」とうたいながら、ベースロード電源と位置付けており、脱原発の本気度は見えない。

 15年に1%強だった原発の割合を30年には20~22%にするとして、「原則40年」とした寿命の延長や新増設の思惑をにじませている。再稼働にも前のめりで、国民の思いとはずれがあると指摘せざるを得ない。

 福島の事故で原発を取り巻く環境は激変した。何より安全性への国民の信頼が揺らいだ。共同通信の世論調査でも全原発の即時停止案に賛成は49・0%と反対の42・6%を上回った。

 より厳重な安全対策が電力会社に求められるようになった。コストが膨らみ、関西電力は先月、大飯原発2基の廃炉を決めた。原発は安くはないのだ。

 核燃料サイクルの行き詰まりなども原発政策の壁となっている。輸入依存のエネルギー資源を「国産化」できるはずの核燃料サイクルだったが、プルトニウムを燃やす肝心の高速増殖炉もんじゅは廃炉が決まった。

 原発で使った核燃料の燃えかすからプルトニウムを取り出す再処理工場は、青森県六ケ所村で建設中だが、昨年末、完成時期の3年延長が発表された。1993年に着工、当初は97年完成の予定だったが、延期は24回目だ。2兆円もつぎ込んだが、完成は見通せないのが現状だ。

 エネルギーを考えるには温暖化対策の視点も不可欠だ。化石燃料だけには頼れない。中国電力が計画中の石炭火力の三隅発電所(浜田市)について、環境省から待ったがかかった。最新技術で環境にも配慮して計画したが、厳しい判断が出された。

 中電に限った問題ではない。現行のエネ計画で26%とした30年の石炭火力の比率は、引き下げが必要だ。国を挙げて再生可能エネルギーにお金や人材をもっと投入すべきではないか。

 ところが、政府は再生可能エネルギーの固定買い取り価格を段階的に引き下げており、消極的だ。市場拡大にブレーキがかかり、昨年は太陽光発電関連事業者の倒産が年間最多を更新した。「導入に向けた取り組みは国際水準にも達していない」との批判が閣僚から出るほどのお粗末さだ。改善が急がれる。

 原発・エネルギー政策は、私たちの暮らしを支える重要な問題である。時代の要請や国民の願いに沿ったものにするため、原発ゼロを目指す法案の国会審議を通して、国民的な議論を活発化させなければならない。

(2018年1月15日朝刊掲載)

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