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社説・コラム

社説 トランプ政権1年 「完全一致」では危うい

 トランプ米大統領がきのう就任1年を迎えた。まあ、よく持ったものだ―。そんな声さえ聞こえてくる。

 「米国第一主義」を掲げ、環太平洋連携協定(TPP)やパリ協定からの離脱など、オバマ前大統領の政策を次々転換した。奔放な言動でも、世界を振り回してきた。

 大統領選での公約をその通り実行に移したという意味では、筋を通したのかもしれない。しかし各国が互いの利害を調整しながら、積み上げてきた枠組みを軽んじる姿勢は目に余る。

 この型破りな指導者に、各国も驚いたり笑ったりしている場合ではない。どう向き合っていくかが問われていよう。

 米国では内政が混乱を極めている。足元の政権では早期辞任や更迭が続き、今も不協和音が絶えない。大統領の排他的な移民政策などを巡り、与野党の対立が続く。2017年10月~18年9月の米連邦予算を成立させられない状態が続いており、期限だったきのう、政府機関の一部閉鎖を余儀なくされた。

 平均支持率は30%台と、就任1年の数字としては戦後最低だという。ただ、与党共和党の支持層だけでみると80%を超えており、底堅い。

 そこに、トランプ政権の危うさがあるのではないか。支持層を固めておけば、ほかはどうでもいいと言わんばかりの施策や言動が繰り返されている。

 就任早々、大統領令に署名したイスラム圏からの入国制限措置は国際社会の批判を浴びた。人種差別や女性蔑視の発言でしばしば物議を醸し、最近ではアフリカやカリブ海諸国への侮辱発言も問いただされている。

 「米国第一主義」は、白人中心の「支持者第一主義」と見なされても仕方あるまい。

 エルサレムをイスラエルの首都に認定する宣言を急いだのも、重要公約であるメキシコ国境の壁建設が進まない中、支持層をつなぎ留める策だったのではないか。秋に中間選挙が控えているからである。

 自身に批判的なメディアを「偽ニュース」とたたきのめすやり方も、既存メディアに反発する支持層を意識したものだろう。政権を揺るがすロシアゲート疑惑から、国民の目をそらす狙いも透ける。社会の分断は深まるばかりである。

 被爆地としては、常軌を逸した言動の続くトランプ氏が、核のボタンを握っていることへの不安が募る1年でもあった。

 「核のボタン」を誇示する北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)氏に対し、「私のボタンの方がより大きく強力」と応じる姿勢が緊張を高めているのは明らかである。怒りに任せた突発的な衝突に日本が巻き込まれかねない。

 米国の威信を支えてきたのは、自由や民主主義を重んじる寛容な理念だったはずだ。トランプ氏はそれを自覚し、国際協調路線に立ち戻る必要がある。

 それを促すのが日本の役割ではないか。しかし安倍晋三首相は日米首脳会談後の記者会見などで、米国と「100パーセント共にある」「完全に一致」といった発言を繰り返してきた。

 米軍ヘリが日米の合意を破り、学校上空を飛行した問題で、沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事は「良き隣人ではない」と述べている。米国との距離感も、冷静に見つめ直すときである。

(2018年1月21日朝刊掲載)

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