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「届かなかった手紙 原爆開発『マンハッタン計画』科学者たちの叫び」 東京の大平さん新著

原爆使用反対 科学者らに光

 東京在住のフリーライター、大平(おおだいら)一枝さん(53)が、ノンフィクションの新著「届かなかった手紙 原爆開発『マンハッタン計画』科学者たちの叫び」を出版した。米国で原爆開発を提案しながら使用を阻止しようとした物理学者レオ・シラードと、その賛同者に光を当てた。(金崎由美)

 ハンガリー系ユダヤ人のシラードは、核分裂反応を着想したことで知られる。米国が原爆を開発したマンハッタン計画。ナチス・ドイツの動きを憂慮した物理学者アインシュタインが大統領に書簡を送ったのが端緒とされるが、それもシラードが促したものだ。

 ただ敗色濃厚のドイツではなく、原爆の対日使用へと方針転換する。計画に関わる科学者にも反対の動きが出て、中でもシラードは1945年7月になって約70人の署名を集めて「道義的に問題だ」と無警告の使用に反対する嘆願書を提出。しかし握りつぶされ、原爆投下を決断したトルーマン大統領に届かなかった。

 大平さんはオバマ前大統領が広島を訪問した2016年、ほとんど注目されていないこの史実をテレビ番組で知り、米国で生存者を見つけて訪ね歩いた。「シラードに賛同し、署名した人も謝罪や後悔は決して口にしなかった。戦争で仕方がなかった、と」。被爆者の苦難との溝に、やりきれなくなったという。

 しかし広島市佐伯区の被爆者森下弘さん(87)の体験も聞いて、「通じ合えなくても『命の尊厳』という立脚点だけは忘れてはならない」と思い直した。

 注目するのはシラードの戦後の生きざまだ。専門を分子生物学に変え、核軍縮を訴えるロビー団体を設立するなど社会と政治へ関与を続けた。「科学者の責任を貫いたのだろう。私の取材に応じた人たちも、語り残す責任は果たそうと思ったのかも」と大平さん。

 「原爆被害は国家プロジェクトのために一人一人が目の前の課題に全力を尽くした結果でもある。今、日本で平和を考える上でもひとごとではない」と語る。角川書店刊、1900円。

(2018年1月22日朝刊掲載)

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