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遺品 無言の証人

行動たどる定期券

偶然の登校 生死分けた

≪無言の証人・定期乗車券≫
 廣島―中深川という駅名と有効期限「20―8―9」(昭和20年8月9日)。印字がかすむ定期乗車券は、広島市安佐北区の馬場千賀雄(ちかお)さん(86)が原爆投下の日も手にしていた。

 県立広島工業学校(現県立広島工業高)の1年生だった。午前6時半ごろ、芸備線の中深川駅から乗車して広島駅へ。爆心地から約2キロの千田町(現中区)の学校に歩いて着いた。くじ引きに当たり、クラスで1本だけ配給される傘を受け取るはずだった。

 倉庫の鍵を先生が捜すのを待っていて被爆、校舎の下敷きになるが命は拾う。爆心地近くの建物疎開に動員された1年生の192人は犠牲になった。「くじに外れたり、先生が鍵を見つけるのが早かったりしたら自分も死んでいた」

 被爆時の衣服は9月の枕崎台風で流され、教科書に挟んだ定期券だけが手元に残った。すっかり忘れていたが被爆70年を迎える頃、自宅を整理して見つけ、原爆資料館に寄贈した。

 館の平和データベースによれば、8月6日に使っていたとみられる定期券は収蔵庫にあと4枚ある。当日の行動をたどれる貴重な資料といえる。(山本祐司)

(2018年2月6日朝刊掲載)

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