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被爆者の心情聞き取る ブラジル人研究者ナカガワさん 証言集出版へ

 ブラジル・サンパウロ大の研究員で、心理学者のクリスチアニ・ナカガワさん(35)が、広島市立大の客員研究員として被爆者の証言の聞き取りをしている。博士論文の執筆とともに、被爆証言集としてポルトガル語と英語で出版することも目指す。(金崎由美)

 日系人のナカガワさんは被爆者が負った心の傷や生存者としての負い目などの感情を、戦時中の社会状況も踏まえて分析している。「過酷な体験を生き抜いた被爆者の姿に感銘を受けてきた。研究で終わらず、体験継承の力にもなりたい」と、現地の日系人被爆者の証言を著書に収録したり、原爆で肉親を失った女の子の悲しみを題材にした絵本を出版したりしている。

 被爆地での研究活動は2009年以来3回目。今回は2月末まで約50日間、広島市に滞在する。日本語は不自由なだけに、縁を深めた市民たちの全面協力に支えられている。原爆資料館を訪れたナカガワさんに展示解説をしたことがある同館のピースボランティア、原田健一さん(72)=東区=が英語通訳を務める。

 被爆者とは3回会う。戦前の暮らしと被爆、これまでの体験をじっくり聞いている。寺本貴司さん(83)=廿日市市=も話を聞いた一人だ。学童疎開先に迎えに来た母にわがままを言い、予定より早く一緒に広島へ戻ったために母が被爆死したという自責の念。「黒い雨」が降った時、近所のおばさんが頭からトタンをかぶせてくれたため「与えてもらった命を生きている」と思っていること…。

 「地球の裏側の国で熱心に被爆者研究と、市民への発信を続ける人の力になりたい。原爆被害を世界に広めるには、海外からの研究者を支援する体制も広島には必要と気付く機会にもなった」と原田さん。ナカガワさんは「一人でも多くの被爆者と出会い、被爆75年までには体験証言集の出版を目指したい」と話す。

(2018年2月6日朝刊掲載)

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