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連載・特集

解剖 海上自衛隊 呉・江田島の現場から 第1部 潜水艦乗船ルポ <中> 明かせぬ任務

有事に備える海の忍者 密室で耐え続ける緊張

 飛び起きたら、天井に額を打ち付けるな。海上自衛隊呉基地から点検のため神戸市を目指す潜水艦けんりゅうに乗船して2日目。近海の哨戒など本来の任務中なら魚雷が眠る場所で目を覚ました。

 艦内は狭い。武器や精密機器の空きスペースに居住区を設け、乗員用のベッドをねじ込んだ感じだ。高さ約60センチ、幅約50センチ、長さ約180センチ。まさしくこの「すき間」が乗員の唯一のプライベート空間だ。

 通常の任務では、3班に分かれ、6時間交代で当直が巡ってくる。「実際、寝られるのは2、3時間ずつ」という経験者もいる。当直でない時間帯は、このベッドにもぐり込み、本を読んだり、ゲームをしたりして過ごす。

食事1日4回

 当直の交代に合わせて、食事は午前0時、6時、正午、午後6時の1日4回。動きが制限される艦内の勤務が続くと太りがちになるのが乗員の悩み。通路を利用して筋トレに励む姿も目にした。

 この繰り返しで、数カ月も海中に潜むこともあるという。「海の忍者」は行動全てが極秘だ。艦長の花田耕一2等海佐(41)は「潜水艦はいるかいないか分からないのが基本。他国の船に常にプレッシャーを与える必要があるためだ」という。

 乗員は家族にさえ、航海の日数すら伝えてはならない。かばんに詰める着替えの量で、家族は留守の日数のめぼしをつける。

 「家族には心配を掛けている。半面、潜水艦勤務の非日常が家族の日常を守っているとの自負もある」。石本高嗣2等海曹(33)は複雑な表情を浮かべた。

息殺して潜航

 潜航中は特に、艦内の緊張度が増す。わずかな物音も立てられない。乗員全員がまさに息を殺す。他国の潜水艦がどこで耳を澄ませているか分からない。

 床のゴムマットで足音を消す。食器を落とす、物をぶつけるなどもってのほか。トイレ使用さえ禁止される場面もある。

 狭く、文字通り密室での緊張に耐え続ける。乗員の証しとなる胸のドルフィンバッジを得るには、厳しい適性検査に合格する必要がある。

 敵にも、家族にも、過酷な任務を隠し、海に潜む乗員たち。「有事に備え技能を磨いている。決して戦争をしたいわけではない」。花田艦長の言葉が心に残った。(浜村満大)

潜水艦けんりゅう
 そうりゅう型の4番艦。川崎重工が建造し、2012年3月に就役した。全長84メートル、最大幅9・1メートル、基準排水量は2950トン。水中での速力は20ノット。漢字表記では「剣龍」と書く。「剣」は「武力、軍事力」を示し、「龍」は「守護神、厳格な監視者」との意味がある。建造費は約530億円。

(2018年2月23日朝刊掲載)

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