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申珏秀・駐日韓国大使に聞く 韓日 共に利益得る関係を

 韓国の申珏秀(シンガクス)駐日大使が広島市を訪れ、中国新聞の取材に応じた。申大使は、竹島(韓国名・独島(トクト))や歴史認識などをめぐる日韓の緊張について「問題を乗り越え、隣国として共に利益を得る関係を築くことが重要」と述べ、地方同士の積極的な交流が今後の鍵を握るとの認識を示した。(聞き手は北村浩司総合編集本部長)

  ―今回の広島訪問の目的をお聞かせください。
 21世紀はグローバル化、地域化、地方化の時代だと思う。日本は地方の力が強い。韓日の地方同士がより強く結び付けば両国関係は良くなるのではないか。広島県だけでも広島と大邱(テグ)、福山と浦項(ポハン)、呉と昌原(チャンウォン)、三次と泗川(サチョン)が姉妹・友好都市提携している。交流をさらに増やし、質も高まれば両国関係全般の強化につながると信じて各地を回っている。

  ―交流拡大に向けた重点分野は。
 青少年交流を中心に力を入れている。子ども時代に経験したことは一生、生きるからだ。過去の歴史問題もそうだ。日本の若者には過去に何があったかをもう少し学んでもらい、韓国の若者には、日本が戦後どう変わったのか客観的に見る努力をしてほしい。

 例えば、韓日の企業は競争関係にある半面、協力も増している。両国企業の先端分野を結合させてシナジー(相乗)効果を上げることも可能ではないか。韓国でも漫画、ファッション、建築などの日本文化が生活に浸透し、韓国では日本酒、日本ではマッコリ(どぶろく)の売り上げがそれぞれ増えている。こうしたポジティブな点を伸ばす姿勢が必要ではないか。

 北朝鮮の核問題などで東アジア情勢は不透明だが、この地域に平和的、経済的繁栄を築くために両国の協力は欠かせない。

  ―ただ両国間には領土や歴史認識など、ぎくしゃくする問題も横たわっています。
 問題があるのは事実だが、うまく乗り越え、ウィン・ウィン(双方が利益を得る)関係を築くことが重要だ。国交が正常化した1965年には両国間の往来は年1万人だったが、今は日に1万5千人。地理的、文化的近さを活用すべきだ。観光による往来は、国民同士の心を縮める大切な役割を担っている。

  ―歴史的にも瀬戸内海は朝鮮通信使の渡航ルートでした。
 相手国を訪れる際に、歴史的なつながりを語り合える物語性があれば、さらに楽しめる。その意味で朝鮮通信使は格好の材料だ。通信使が立ち寄った下蒲刈(呉市)には立派な資料館があり、韓国人も通信使の歴史を学べると思う。

  ―北東アジア情勢が不透明な中で、核兵器廃絶と平和構築についてどうお考えですか。
 国連総会第1委員会(軍縮)で日本政府が主導した核兵器廃絶決議案が、圧倒的賛成多数で採択された。19年連続の採択は日本政府の努力の結果だと思う。今回、英国も共同提案国に加わったが、これはオバマ米大統領が示した核なき世界に向けてのビジョンがあったからだと思う。そうしたビジョンを持ち、少しずつでも前進することが大事ではないか。

 ―広島の役割については。
 重要だと考える。核の惨劇を知る広島は「不幸は二度と繰り返してはならない」という意味を持っている。その役割を果たしてほしい。

 ―在日韓国人に何を期待しますか。
 世代交代が進む在日韓国人社会だが、韓日を結ぶ役割は彼らだからこそできる。日本で生まれ、育ち、職を得て、骨をうずめる。そんな彼らを日本社会ももっと受け入れてもらえれば、両国にとってプラスになる。

 ―両国の社会には似通った点も多いですね。
 日本で起きたことが10年ほど後に韓国で起きることが多い。経済協力開発機構(OECD)加盟国で今、高齢化の進行が最も速いのが韓国。この分野での日本の経験は大きな勉強材料になる。所得格差の問題もそう。良い対応策があれば、学び合って政策に生かすべきだ。

 さらにエネルギーの効率的利用の面で日本は世界一。韓国も「低炭素・緑色成長」という枠組みで気候変動などへの対策に力を入れている。これらは世界にも寄与できる分野だろう。

シン・ガクス
 1955年韓国・忠清北道生まれ。ソウル大法学科卒。77年に外交通商部(当時・外務部)に入り、条約局長、駐イスラエル大使、第1次官などを経て、2011年6月から現職。

(2012年11月20日朝刊掲載)

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