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大林作品 原点は平和 尾道映画祭 監督の故郷で特集

「幼少期、戦死は身近だった」

 尾道市出身の大林宣彦監督(80)の作品を特集した「尾道映画祭2018」が2月23日から3日間、同市で開かれた。昨年12月に封切られた新作「花筐(はながたみ)/HANAGATAMI」と初期作を中心に上映し、創作の原点をたどるプログラム構成。大林監督は連日登壇し、映画作りに込めた平和への思いを語った。(西村文)

 初日はしまなみ交流館で開会式と「花筐」の上映。会場を埋めた約700人の観客から「お帰りなさい」と出迎えられた大林監督は、「故郷でこういう(大林作品を特集した)映画祭は初めて。うれしい」と、がん闘病中ながら元気そうな笑顔を見せた。

 「花筐」は、檀一雄の同名小説を基に大林監督が脚本を執筆。死の影を背負った男女の青春を美しい映像でつづり、キネマ旬報ベストテンの日本映画第2位と監督賞などを受賞した。

 上映後のトークには大林監督と、出演者の窪塚俊介、満島真之介、常盤貴子らが登壇。主演の窪塚は、監督の代理で出席したオランダ・ロッテルダム国際映画祭について「拍手喝采で、熱心な質問も飛び交った」と報告した。監督は「本作の反響には驚いている。時代を反映する何かを、観客が感じているのだろう」と述べた。

 満島は本作の象徴として「青春が戦争の消耗品だなんてまっぴらだ」というせりふを紹介。監督は「尾道で過ごした幼少時代、戦死は身近だった」と振り返り、「私の映画は虚実のはざまを描き、生きているのか死んでいるのか分からない人が登場する。幼少期に感じた死者の気配が原点だと気付いた」と明かした。

 大林作品の長年の大ファンという常盤は「坂の上から古い町並みや海を眺め、監督の言う気配を実感した」と、尾道の風土と作品の関係性に言及した。

 大林監督は記者会見で次回作の構想に触れ、「なぜ原爆投下に至ったのかを描き、映画の力で未来を変えたい」と意欲を語った。

 最終日、地元大学生の映像作品を大林監督が講評するプログラムが組まれていたが、急きょ取りやめに。「学生も大林監督の青年時代の作品を見た上で映画作りを語り合うという趣旨を、学生側にきちんと伝えていなかったため」(映画祭事務局)という。監督は会見で「次世代の監督たちに(平和への意志を)引き継いでもらいたい」と述べていただけに、惜しまれた。

(2018年3月3日朝刊掲載)

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