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社説・コラム

天風録 『クボタンと空母』

 1988年3月の参院予算委員会。自衛隊は空母を持つべきではないと野党はあらためてくぎを刺す。「クボタン」と呼ばれた社会党の久保亘氏が先頭に立ち、当時の瓦力(かわら・つとむ)防衛庁長官に詰め寄った▲長官は専守防衛を強調し「空母を擁する考えはない」と答えたが、防衛官僚が直後に付け足す。攻撃型の空母は持たないということだと。「防衛のための、空母は持ちうる」と答弁を修正した長官に、クボタンは屁理屈(へりくつ)だとかみついた。「結局そういうのが将来問題になるんだ」▲30年後、言葉通りになる。小野寺五典防衛相が先日、防衛型の空母に含みを持たせた。広い甲板を持つ護衛艦「いずも」で、戦闘機の発着が可能か調査していることを明らかにした▲日本の空母といえば真珠湾攻撃を思い浮かべる人もいよう。巡航型ミサイルの配備計画もそうだが、防衛の「盾」だと説明しても「矛」にも使える。矛盾が国民や国際社会にどう映るか▲クボタンは陸軍士官学校で敗戦を迎えた後、広島大の前身、広島文理科大に進む。政治の原点は「原爆の傷痕が残る広島での学生生活」という。あの鋭い舌鋒(ぜっぽう)は反戦平和を願うがゆえか。泉下で今の国会論戦をどう見ていよう。

(2018年3月4日朝刊掲載)

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