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土田ヒロミさん写真集「フクシマ」 原発事故後の自然 足かけ7年の記録

 土田ヒロミさん(78)=東京都=の最新写真集「フクシマ2011―2017」(写真・みすず書房)が刊行された。長くヒロシマにも向き合ってきた写真家が、東京電力福島第1原発事故による放射性物質で汚染された福島県内の自然を、足かけ7年にわたり見つめた記録だ。

 緑の若々しい田園や、霧に煙る山々。何げない山里の風景だが、汚染によって心やすく近づけない。人間と自然が長く積み上げてきた共生関係が崩れた現実を、淡々と突き付ける。

 撮影の舞台は双葉町や浪江町、飯舘村など15市町村。大半は、立ち入り禁止の「警戒区域」や、住民に避難を求める「計画的避難区域」に指定されたことのあるエリアで、現在も「帰還困難区域」指定のエリアもある。土田さんは2011年春から17年秋にかけて約120回、撮影を重ねた。

 カメラを向けたのは、地元の人にとって身近にあることが当たり前だった自然だ。田村市の山肌のフジは、満開の房を重そうに垂らす。アシが群生した飯舘村の用水池は、雨の中で水墨画のような姿を現す。色とりどりに紅葉した富岡町の山、ピンクの花が咲き誇る浪江町の花畑…。

 「撮影期間中ずっと、地元の生活者を見掛けなかった」と土田さんが話すように、人影はない。かつてと何も変わらないように見えて、もはや安易には近づけない自然の美。除染の廃棄物を詰めた黒い袋「フレコンバッグ」が、風景の調和を無残にかき乱すさまも記録した。

 ヒロシマを撮った作品でも知られる土田さん。1979年刊の写真集「ヒロシマ1945~1979」は、被爆体験記「原爆の子」に寄稿した子どもの後の姿を、被爆30年余りたった時期に訪ね歩いた記録だ。復興が進み、目に見えにくくなっていく原爆の悲劇をどう伝えるかに挑んでいる。

 この姿勢はフクシマの撮影にも通じるという。「放射性物質によるフクシマの破壊は目では分かりにくい。人間が退避しなくてはならなかった美しく大きな自然を撮ることで、悲劇に迫ろうとした」と話す。

 撮影を続ける中、目の前の風景が10年後、20年後にどう変化するのかを考えるようになったという。「自然の中に人は戻ってくるのか、こないのか。壊れた風景は再生されるのか、されないのか。撮影し続けることは、現代を生きる人々からの負託だと考えています」

 A4判変型、196ページ。1万2960円。(治徳貴子)

(2018年3月10日朝刊掲載)

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