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社説・コラム

社説 艦載機移転 不安を増す乏しい情報

 米軍岩国基地(岩国市)が、極東最大級の航空基地になる計画が最終段階に入った。在日米海軍司令部によると、昨年8月に始まった厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機約60機の移転のうち、残っていたFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機2部隊(24機程度)は今週中に移り終えるという。26~30日には計13機が飛来してきた。

 移転は日米両政府が2006年に合意した在日米軍再編の柱の一つだ。完了すると岩国基地の所属機は、従来いた海兵隊を含め約120機と倍増する。その分、事故やトラブルも増えよう。国や地元自治体、山口県は住民の不安に向き合い、解消に全力を尽くさねばなるまい。

 移転に絡み、今年後半にも軍人や家族ら約3800人が移って来れば、基地関係者は1万人を超すことになる。どんな変化を市民にもたらすのか、注意して見続ける必要がある。

 移転完了の時期は、当初計画から前倒しされた。理由を中国四国防衛局に問うても「米軍の運用状況」と説明するだけだ。この問題にとどまらず、米軍に関する情報は乏しい。防衛上の配慮は要るのだろうが、度を越した情報の非開示が続けば、住民の不安を強めかねない。

 基地機能強化で攻撃目標にされる可能性は増すに違いない。巻き添えにならないか。不安を覚える周辺住民もいるだろう。地域の平和や国民の安全確保には、対話や外交努力が欠かせないはずだ。国が、そのことを忘れてもらっては困る。

 軍事行動や衝突が起きなくても、住民への影響は否定できない。例えば騒音は今年1月、一定レベルを超す回数が前年同月より増えていた。国と山口県、岩国市が、広島県を含む基地周辺の計30地点に測定器を置いて調べた結果、岩国だけでなく、大竹や廿日市でも2~3倍に急増。移転完了で、さらに回数が増えたり被害エリアが広がったりしないか検証が欠かせない。

 米軍機のトラブル続発も住民は懸念している。先月は、三沢基地(青森県)のF16戦闘機が飛行中にトラブルを起こし、基地北側の小川原湖に2個の燃料タンクを投棄した。沖縄では昨年末、小学校や保育園にヘリの部品が落ちた。島根県西部や広島県西部などの中国山地で低空飛行訓練が繰り返される中、トラブルが地元で起きないか不安が高まるのも無理はなかろう。

 米軍機の事故で徹底調査や再発防止を求める住民の前に日米地位協定が立ちはだかる。低空飛行訓練について休日、夜間の制限などの規定を明記していないことも問題だ。自治体はまず見直しの必要性を国に訴え、住民の安全を第一に考えてもらうよう努めねばならない。

 米軍再編に伴う国の交付金については、広島県にも支給するよう同県が求めている。「受け取れば物が言いにくくなる」「低空飛行訓練の容認につながる」との批判もある。たとえ実現しても、言うべきことはきちんと国に言い、学校への防音対策など住民被害軽減に役立てられなければ足元を見られかねない。

 岩国基地は、周辺を含む住民の不安が拭い切れないまま、極東最大級の拠点となる。関係自治体や山口、広島両県は、住民の生命や財産、平穏な暮らし優先の立場を崩さずに、国や米軍と相対するべきである。

(2018年3月31日朝刊掲載)

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