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核軍縮 34ヵ国評価下げる 17年の取り組み採点「ひろしまレポート」 禁止条約対応が影響

 広島県は9日、核兵器を巡る世界36カ国の2017年の取り組みを3分野で採点した「ひろしまレポート」を公表した。国連が昨年7月に核兵器禁止条約を採択したのを踏まえ、核軍縮の分野で禁止条約を評価項目に追加。署名や批准が進んでいないとして、核拡散防止条約(NPT)で認められた核兵器保有5大国を含む94・4%の34カ国が、前年と比べて評価を下げた。日本の下落幅は全体で2番目に大きかった。(村田拓也)

 県の委託で執筆を担ったシンクタンク「日本国際問題研究所」(東京)の戸崎洋史主任研究員(核問題)は県庁での記者会見で「市民社会が参加する形で初めての禁止条約ができたのは評価できる。早晩発効するだろうが、賛成国と反対国で亀裂や分断が深まっている」と指摘した。核軍縮で評価を上げたのは南アフリカだけだった。

 核軍縮の分野で、禁止条約の評価に配分したのは10点。①条約への署名や批准②国連総会での核兵器を法的に禁止する3種類の決議への投票行動―で採点した。最低は5大国の英国、フランス、米国を含む12カ国の0点。最高は条約に署名した南アフリカなど7カ国の6点で、全て非保有国だった。日本は2種類の決議に棄権して1点しか得られなかった。

 日本は、核軍縮全体の採点結果を満点と比べてどのくらいの割合だったかを示す評点率で全体の12位。前年と比べた評点率の下落幅は全体で2番目に大きく、順位も六つ落とした。

 禁止条約制定に貢献した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のノーベル平和賞受賞など、日本で核兵器廃絶を求める声は強まったとの見方もある。記者会見に同席した県の「国際平和拠点ひろしま構想」推進委員会副座長の阿部信泰元国連事務次長(軍縮)は「政府の行動を採点した結果だ。市民社会の動きは反映しがたい」と述べた。

 評点率は、5大国では全てで0・6~5・3ポイント下落した。事実上保有する4カ国では増減なしのイスラエルを除く3カ国で0・7~2・3ポイント、非保有27カ国では南アフリカを除く26カ国で1・4~11・2ポイント、それぞれ下げた。

 核軍縮では5大国と4カ国、非保有国で、核弾頭の保有数や削減へ向けた取り組み、他国の「核の傘」への依存度など、評価項目が大きく異なる。満点は5大国101点▽4カ国98点▽非保有国42点。禁止条約の追加は、非保有国で評点率により大きく影響した。

 残る2分野は、核不拡散と核物質の安全管理。核不拡散では5大国の英国、中国、ロシアの3カ国が評点率を下げた。上昇は南アフリカとパキスタン、イランの3カ国だった。核物質の安全管理では、悪化が米国とベルギーの2カ国、改善は中国など15カ国。増減なしのうち北朝鮮は、誤りがあったとして16年の評価を訂正した。

18年は米朝動向に注目

 阿部信泰元国連事務次長(軍縮)は9日、「ひろしまレポート」を公表する記者会見で、2018年の注目点として北朝鮮と米国の動向を挙げた。核兵器廃絶を巡る動きは「停滞どころか、北朝鮮を中心に緊張が高まっている」と分析。核兵器禁止条約に反対する核保有国と、賛成する非保有国の間の亀裂も深刻になっているとした。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は27日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と首脳会談に臨む。5月末までにはトランプ米大統領との史上初の米朝首脳会談の開催も見込まれる。

 阿部氏は「米朝首脳会談の結果がどうなるかが、ことし最大の注目点だ。両首脳が決めれば朝鮮半島の非核化はできるので、ぜひ実現してほしい」と望んだ。一方で、北朝鮮は日本にも一定の見返りを求めるとして「米国の核の傘の放棄や日米安保条約の廃棄を要求してくる可能性がある。どう対応するか、考えておく必要がある」と指摘した。

 禁止条約は、保有国と非保有国の対立に加えて「米国でも日本でも、国内の核軍縮の推進派と抑止・現実派の対立が非常に鮮明になった」と解説。対立する両者を橋渡しするために「核兵器はそもそも使えない、使ってはいけない兵器という原点の議論も役に立つ。克服する知恵を出すという点で、広島が果たすべき役割はある」と強調した。(村田拓也)

(2018年4月10日朝刊掲載)

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