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社説・コラム

再スタート 広島大平和センター 川野センター長に聞く ヒロシマ教育を強化

旧理学部活用策でも貢献

 広島大は今月1日、「広島大学平和センター」を置く規則改正をした。従来の平和科学研究センター(平和科研)から名称変更して再スタートした。平和研究に加えて教育面での機能強化をうたい、ヒロシマ研究の成果を国内外に発信するという。センター長の川野徳幸教授(51)に展望を聞いた。(金崎由美)

  ―広島では戦後間もない時期から平和研究拠点の必要性が叫ばれ、1975年に被爆地の期待を背負って発足したのが平和科研でした。当時からの伝統ある名称を見直したのはなぜですか。
 平和科研については、過去10年間の活動実績を点検した上で今後の存続方針を3月末までに決めることになっていた。その結果、存続期限を定めない組織にするとともに、平和教育という現代的なニーズの高まりに応える方針を大学として打ち出した。

 平和センターは現在も、国立大学では日本唯一の平和学研究機関。40年余りの実績を踏まえつつ、研究と教育を両輪として平和の「中心」を担っていこうと名称変更に至った。

  ―機能強化の中身とは。
 研究分野は二つ。原爆被害や核兵器廃絶について掘り下げる「ヒロシマ平和研究」領域は、われわれの原点。貧困や飢餓などのより広い課題を扱う「グローバル平和研究」領域は、平和を阻む問題について世界的に特別な意味を持つ広島の地から研究、発信するものだ。平和センターの専任教員は4人で、他は兼任や客員の研究者。2分野に特化しながら実績を重ねていきたい。

 一方の教育面は、学内全体の平和教育プログラムの策定や実施にこれまで以上に参画することなどが柱。将来的には広島大で平和学の修士号や博士号を取得可能にすることも検討する。

  ―ほとんどの学生が東広島キャンパスで学んでおり、ヒロシマを日常的に感じることは地理的に難しい現状にありませんか。
 学生の7割が広島県外の出身ということもあり、われわれが常に意識している点だ。現在、学内で29の平和科目を開講し、どれか1科目の履修を義務付けているのも、そのためだ。

 総合科学部や大学院国際協力研究科など学内に散らばる関係機関を結び、70年余りの広島大全体の平和関連の研究の蓄積を教育に還元していきたい。被爆者なき時代という将来訪れる現実を前に、体験や記憶の次世代継承につながると思う。

  ―広島市立大や長崎大など他の研究機関との連携や、市民との交流も求められます。
 市民との知見の共有を深める試みとして先日、原爆資料館と共催で公開講座を開いた。来年以降も続けたい。また、平和センターに隣接する広島大本部跡地の被爆建物、旧理学部1号館の保存活用策についても関わっていく考えだ。被爆の実態を伝える象徴的な建物。平和記念公園との間に往来の動線ができれば、広島市、複数の研究機関、市民らが「オールヒロシマ」で平和を学び、発信する機能が生まれるはず。活用の企画立案で貢献したい。

かわの・のりゆき
 1966年鹿児島県生まれ。広島大大学院医歯薬学総合研究科博士課程修了。同大原爆放射線医科学研究所助手、同大平和科学研究センター准教授を経て2013年に同センター教授。17年、センター長兼任。専門は原爆・被曝研究、平和学。

(2018年4月10日朝刊掲載)

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