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社説・コラム

社説 米英仏のシリア攻撃 情勢の混迷 深めないか

 米英仏3カ国がシリアへの軍事攻撃に踏み切った。トランプ米大統領は、シリアのアサド政権が反体制派の拠点地区で化学兵器を使い市民を殺傷したと断定し、攻撃を指示したという。

 化学兵器の使用は決して許されない。だが、武力で事態が打開できるのだろうか。混迷がさらに深まることを懸念する。

 トランプ政権は昨年4月にもアサド政権が化学兵器を使用したとしてシリアを攻撃した。だがその後も使用が疑われる悲劇は繰り返されてきた。軍事介入で、化学兵器の使用が終わるという保証はどこにもない。

 問題は国連安全保障理事会の枠組みが解決につながっていないことである。これまで連日協議を続けても一向に妥協点を見いだせなかった。拒否権を持つ常任理事国の中で、アサド政権の後ろ盾となっているロシアと米英仏が対立しているからだ。

 アサド政権は一貫して化学兵器使用を否定しているため、使用した勢力を突き止める独立調査機関の新設が課題である。にもかかわらずロシアの反対で、合意の見通しも立たなかった。ロシアには何か後ろめたいことでもあるのか疑いたくなる。

 英国のメイ首相は、攻撃について「現実的な他の選択肢がない」と述べた。ロシアのいる国連安保理では結束した対応が期待できないという判断なのだろう。だがそれでは3カ国とロシアの溝は深まるばかりで、和平への道は開けないではないか。

 現にロシアは、米国がアサド政権による化学兵器使用を確認したとしていることに「でっちあげだ」と否定。米英仏の軍事攻撃に対しては「許し難い国際法違反で主権国家への根拠なき攻撃だ」と猛反発している。

 シリアでは、過激派組織「イスラム国」(IS)が各国による掃討作戦で壊滅状態に陥った後、連携していた諸勢力がそれぞれの利益優先で動いている。そこに大国も交えたパワーゲームと化しているのが現状だ。

 トランプ氏はISの力が弱まった昨年来、財政負担などを理由にシリアからの米軍の早期撤収も視野に入れる。長期的な関与は望んでおらず、今回の軍事攻撃も、示威効果があればいいと考えているのではないか。

 米国はオバマ前大統領時代、アサド政権の化学兵器使用を巡って軍事攻撃を警告しながら見送った。トランプ氏はかねてそれを批判してきた。昨年4月にまた疑惑が持ち上がると、米軍単独での攻撃に踏み切った。今回も同様の判断なのだろう。支持率が低迷する中、今秋の中間選挙をにらんだ国内向けのパフォーマンスに見える。

 一方のロシアは、米国が大量破壊兵器の保有を理由にイラク戦争に踏み切り、フセイン政権を倒した経緯から、「シリアに同じことをさせない」と敵意を強めている。

 だがこうした大国の姿勢は国際社会の対立を深めるばかりだ。シリア問題が人道危機であることを忘れてはならない。

 国連のグテレス事務総長は声明を発表し、全ての国連加盟国に対し、「事態を悪化させ、シリアの人々をさらに苦しめる行動」を止めるよう自制を求めた。安保理理事国にも「国際平和と安全の維持」という安保理の責任を果たすよう訴えている。原点に返り、力に頼らぬ和平を探る必要がある。

(2018年4月15日朝刊掲載)

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