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揺れる非核三原則 国是の行方 ヒロシマ懸念

 衆院選を前に、被爆国の国是である非核三原則が揺れている。「第三極」の一角を占める日本維新の会幹部から非核三原則を疑問視する発言が相次ぎ、自民党は「核抑止政策の根本的な議論を」と公約にうたう。選挙後の非核の行方に、被爆地広島で懸念が広がる。(岡田浩平、田中美千子)

 「核兵器廃絶は理想だが、現実は無理」。日本維新の会の橋下徹代表代行は11月10日、広島市中区での遊説後、取材陣にこう言い切った。「日米安全保障条約の中で持ち込ませる必要性があるのなら国民に問うて理解を得たい」と、非核三原則が禁じる核持ち込みの容認姿勢を示した。

 石原慎太郎代表も同20日、講演で「核兵器に関するシミュレーションぐらいしたらいい」と強調した。

発言「裏切り」

 発言に通底するのは核抑止力の肯定だ。被爆者で、広島を訪れた修学旅行生たちに体験を証言する梶本淑子さん(81)=西区=は「核兵器廃絶は被爆地の願い。それを裏切る発言」と受け止める。

 爆心地のある広島1区。民主党、自民党の二大政党をはじめ、日本未来の党、共産党の立候補予定者はそろって「核兵器廃絶の理想を緩めてはならない」「腹の底から怒りを感じる」と批判を強める。日本維新の会は1区に擁立していない。

 これまで政権を担った二大政党も、他党の批判ばかりしてはいられない。

問われる民・自

 2009年の前回衆院選で政権を奪った民主党は非核三原則を堅持する立場を貫いた。だがマニフェスト(政権公約)で掲げた北東アジアの非核化を党内で積極的に議論してきたと言い難い。今回のマニフェストでは、その文言すら消えた。

 日本政府はことし10月、核使用を国際法上非合法にする努力を各国に求める共同声明への署名を拒否した。米国の「核の傘」に頼る安全保障政策との整合性がとれない、との理由からだ。

 一方の自民党。昨年7月、国家戦略本部の報告書で米軍の核兵器搭載艦船の寄港を認める「非核2・5原則」を打ち出した。今回の公約で「核抑止政策について根本的な議論を開始し、基本方針を確立する」と掲げる。

 島根県・竹島や沖縄県・尖閣諸島をめぐる韓国、中国との対立で外交、安全保障に関心が高まる中、安倍晋三総裁は保守色を鮮明にする。憲法改正で自衛隊を「国防軍」と位置付ける▽集団的自衛権を行使できるようにする―と公約に明記した。

 集団的自衛権の行使は野田佳彦首相も容認論者。しかし、民主党は今回マニフェストで集団的自衛権の行使や改憲に触れていない。

 日本維新の会は公約で集団的自衛権の行使ができる法整備や自主憲法の制定を掲げる。日本未来の党は政策要綱に集団的自衛権の文字はないが、安全保障基本法の制定や国連平和維持活動(PKO)参加を進めるとする。

 二大政党に第三極が挑む構図になりつつある衆院選。「民主党が『右』へ寄り、自民党が違いを出そうとさらに『右』へ行く」と広島県原水禁の藤本講治事務局長(61)。「右傾化」が非核三原則の見直しにつながるとの危機感を隠さない。

 広島県被団協(金子一士理事長)の大越和郎事務局長(72)=西区=は「戦争体験者が少なくなる中、ヒロシマは戦争や核兵器の悲惨さを訴える声をより強めていかなければならない」と話した。

(2012年12月2日朝刊掲載)

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