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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 地位協定の壁 <1> 裁判権 公務中は米側に

遺族、国内法の適用訴え

 米空母艦載機の移転が完了し、極東最大級の航空基地になった米軍岩国基地(岩国市)。米軍関係者も移り住み、その人口は1万人超になる。基地と地域の間のルールでもある日米地位協定は不平等さが指摘され、その現実に直面する事態が今後、岩国でも増える可能性がある。地位協定の姿を岩国から見る。(久保田剛)

 岩国基地から西へ約3キロ。高台にある百合ケ丘団地(同市牛野谷町)を上ると、谷を挟んだ隣の高台に真新しい住宅が整然と並んでいた。米軍家族向けの住宅エリア「アタゴヒルズ」。空母艦載機の移転に合わせて国が愛宕山地区に整備した。昨年12月、米軍家族の入居が始まった。

 百合ケ丘団地は入居が始まって半世紀近くになる。「この家を建てられたのは基地のおかげ」。基地内の店舗で約40年間働いていた80代の女性は、庭掃除の手を休めてアタゴヒルズを見やった。「何か事件や事故が起きたら、と不安にはなりますよ」

 団地住民たちには記憶から消えない事故がある。2010年9月、近くの市道を横断していた男性=当時(66)=が、岩国基地の軍属女性=同(32)=の車にはねられて亡くなった。

死亡事故不起訴

 在日米軍の法的地位を定める日米地位協定。軍属が公務中に事件事故を起こした場合、優先的な裁判権は米側にあると規定する。当時、女性は出勤途中で、基地は「公務中」と判断した。女性は、自動車運転過失致死容疑で書類送検されたが、山口地検岩国支部は不起訴処分にした。

 地位協定のため不起訴にした―。遺族は当時、そんな説明を同支部から受けたという。遺族は協定によって適正な捜査が行われなかったとして、岩国検察審査会に2度、審査を申し立てた。しかし、処分は覆らなかった。

 百合ケ丘団地を歩くと、あちこちに「愛宕山に米軍住宅はいりません」と書かれたのぼりが立っている。「もう一つの基地」と言えるアタゴヒルズの整備に反対する声は今もある。

 百合ケ丘団地には、基地に勤める米国人も暮らしている。百合ケ丘自治会(約210世帯)の石田眞信会長(73)は、見掛けたら英語であいさつを交わす。「基地の人たちは日本のために頑張ってくれている。けれど、個人の人柄と制度の問題は別の話」。地位協定は日本の立場に立って改定すべきだと言う。

見直しの声再び

 沖縄では16年4月、痛ましい事件がまた起きた。米軍嘉手納基地の軍属男性が女性会社員=当時(20)=を暴行して殺害した。米側の特権が目立つ地位協定の見直しを求める声が再燃した。

 日米両政府は17年1月、協定で身分が保障される軍属の範囲を縮小する「補足協定」を締結した。凶悪事件のたび協定の運用改善にとどまった従来の対応からは踏み込んだ。それでも協定自体を見直さなかった。

 百合ケ丘団地近くの事故で、基地は軍属女性を処分した。通勤時を除く4カ月の運転制限と安全講習の受講だった。事故の遺族を訪ね歩くと、一人の男性が取材に応じてくれた。

 「日本の裁判にかけられたら、少しは納得できる部分があったかもしれない。自分たちと同じ思いをする人が二度と現れてほしくない」。男性は振り絞るように語った。地位協定への憤りは今も消えない。

軍属
 軍人ではなく、軍隊に雇用された文官や技師などの総称。日米地位協定では、軍人と同様、公務中に起こした事件事故では米側に優先的な裁判権があると規定するが、日米両政府は2017年1月、軍属の範囲を縮小するための補足協定を結んだ。外務省によると、在日米軍基地の軍属の総数は7048人(17年10月現在)。

(2018年4月15日朝刊掲載)

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