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社説・コラム

天風録 『シリアの戦場』

 <いかなる前衛美術もついに及ばぬ凄烈(せいれつ)不可思議な光跡>だった。名編集者、花森安治さんが東京大空襲で降り注いだ焼夷(しょうい)弾の光景を詩「戦場」で描いている。海を越えてやってきた「戦場」が庶民の暮らしの場を奪い去った、と▲米国が英仏とともに、シリアへの再攻撃にとうとう踏み切った。夜空を切り裂くようなミサイルの光跡の下で、どれほど悲惨な「戦場」が広がっていたのだろう。アサド政権が非人道的な化学兵器を使ったと断じて、100発以上を発射したという▲トランプ米大統領は化学兵器の使用を「怪物の犯罪」と言葉激しく非難し、後ろ盾のロシアも強くけん制した。事実なら到底許されるものではない。だが、まずは国際機関の調査を待つべきだった▲シリア内戦は今世紀最大の人道危機ともいわれる。7年間の戦闘で犠牲者は50万人以上とされ、国内外の避難民は1千万人を超える。絶え間ない空爆で都市の破壊もすさまじい。国連事務総長が訴える「この世の地獄」をどうやって終結させるのか▲短絡的な軍事介入は、対立を深めるだけだ。悲惨な戦場を直視し、シリアの人々が暮らしの場を取り戻せるよう責任ある行動を各国に望みたい。

(2018年4月16日朝刊掲載)

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