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社説・コラム

未来変えるきっかけを アンネの家 レオポルド館長に聞く

「被爆地と同じ使命ある」

 オランダの首都アムステルダムにあるアンネ・フランク・ハウス(アンネの隠れ家)のロナルド・レオポルド館長(57)が今月、初来日し、交流のある福山市のホロコースト記念館で講演した。中国新聞のインタビューに応じ、ハウスと被爆地広島は「未来にどう行動すべきかを考えるきっかけを与える、という同じ使命がある」と語った。(高本友子)

  ―ハウスでは何を訴えているのですか。
 ホロコーストで亡くなったユダヤ人たちの「空虚」だ。アンネの家族たちが隠れていた3、4階を公開している。中には家具も何もなく、空っぽの博物館。隠れ家を保存するために尽力したアンネの父オットー氏の意志だ。ホロコーストで妻、娘を亡くしたオットー氏の心の空虚を感じることができる。この空虚こそ、私たちが歩んだ歴史だ。

  ―かつてオットー氏と出会った大塚信館長が、1995年にホロコースト記念館を設立しました。訪れた印象は。
 オットー氏の「過去は変えることができないが、未来は良いものに変えることができる」という精神に触れることができた。迫害の歴史が子どもにも分かりやすい。展示の出口に150万個のビーズがある。ホロコーストで犠牲になった子どもと同じ数で、失われた命の重さが伝わる。差別は全世界的な問題で、欧州から離れた日本にホロコーストを学ぶ場所があることは、意味がある。

  ―伝えたいアンネの言葉はありますか。
 「私が私自身であることができるならば」という一文を挙げたい。彼女はただユダヤ人であるというだけで、15歳で犠牲になった。私たちはみんな違う背景を持ち、何らかのコミュニティーの一員。ホロコーストに関する教育を通じ、共に暮らすことを学ばなければならない。

  ―同じ平和の発信地である広島の人々に伝えたいことは。
 アンネ・フランク・ハウスから出る時、どうしてこの悲劇が起きたのか、人は疑問を抱く。広島を訪れ、原爆ドームを見た人も同じ体験をするだろう。私たちは同じ使命を持った場所にいる。平和とは、日々の生活の中でどうしたら心を静めることができるか、自分にできることは何かを、具体的に考える行動のこと。そのために、歴史から学ぶ道徳教育が求められる。

アンネ・フランク・ハウス
 「アンネの日記」で知られる少女アンネ・フランク(1929~45年)と家族たちが、ナチスによる迫害から逃れるため身を寄せた隠れ家。アンネの父オットー氏が中心となって保存活動をし、60年に公開された。年間約130万人が訪れる。レオポルド氏は政府機関への勤務などを経て、2011年から館長を務める。

(2018年4月16日朝刊掲載)

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