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社説・コラム

社説 イラク日報「戦闘拡大」 派遣の判断 再検証せよ

 2004年から06年にかけてイラク南部サマワに派遣された陸上自衛隊の日報を、おととい防衛省が公表した。イラク復興支援特別措置法に基づき、「非戦闘地域」に限る派遣だったはずだ。ところが、現地の治安情勢を巡る日報には「戦闘」という記述が複数回見える。

 当時、一体何をもって「非戦闘地域」とみなしたのか。自民党内からも「われわれは自衛隊を戦闘に送り出したわけでは全くない」(二階俊博幹事長)という批判が噴出している。

 自衛隊の車列近くで路上爆弾が爆発した時には「活動開始の時間帯を狙われている可能性」といった記述がある。また、英軍のパトロールに反感を持った地元民兵が射撃を始めて「戦闘が拡大」したという。あらためて派遣を巡る当時の政権の判断を検証すべきではないか。

 イラク戦争は大義なき戦争だった。米国主導の有志連合が、イラク国内に大量破壊兵器があることを理由に開戦に踏み切ったものの、実際には存在しなかった。米は検証を経て報告書にまとめたほか、英国も「参戦は失敗」と結論付けている。

 日本政府は開戦早々、支持を表明している。海外での武力行使を禁じた憲法9条との整合性が問われたが、世論を押し切って陸自の派遣を決めた。にもかかわらず、米英のような本格的な検証はなされていない。

 当時、小泉純一郎首相は国会で「非戦闘地域など分かるわけない」「自衛隊が活動する地域は非戦闘地域」と強弁し、野党の批判を浴びた。先日も「(自衛隊が)戦闘をしているとの報告は一切なかった」と述べたが、これまでの政府の説明は明らかに現実と乖離(かいり)している。

 小泉氏は、結果として危険と隣り合わせの異国に自衛隊員を送り出したことの重さを自覚すべきである。派遣の前提条件が崩れていながら派遣を続けていたとすれば、責任の所在も問われなければなるまい。

 小野寺五典防衛相はおととい「イラク特措法に基づいた活動だったとの認識は変わらない」と述べたが、説明責任をどれだけ認識しているのだろう。

 もう一つ問題がある。イラク派遣が検証されなかったこと自体が、その後の安全保障関連法の議論に与えた影響だ。

 イラク派遣当時の「非戦闘地域」は「現に戦闘が行われておらず活動期間を通じて戦闘行為が行われることのない地域」と定義されていた。しかし安保法では、国際紛争に際して行う自衛隊の後方支援は「現に戦闘行為が行われている現場以外」にまで拡大されたのである。

 日報の記述からは一見安全な地域が危険にさらされる現実が見える。イラクの「非戦闘地域」の現実を国会審議に反映すべきだった。安保法の見直しが今後行われる必要がある。

 また自衛隊の海外派遣の是非は別として、日報は装備や部隊の規模、他国軍との関係などを巡って、将来の教訓になる重要な書類であり、当然のことながら保管されなければならない。自衛隊の活動について国民が判断基準を得るためにも、一定の手順に従って情報公開するという意識改革も必要だろう。

 時の政権の思惑で自衛隊員を危険にさらすような事態を、繰り返してはなるまい。国会の関与はさらに重要になる。

(2018年4月18日朝刊掲載)

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