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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 地位協定の壁 <4> 把握できぬ基地人口

調整交付金算定に影響

 花見シーズンが終わっても観光客でにぎわう岩国市の国名勝、錦帯橋。外国人の姿も目立つ。「ベース(米軍岩国基地)の人、特に家族連れが増えた」とボランティアガイド3年目の白石真理子さん(60)。基地では、新たに配属された軍人たちに錦帯橋観光が勧められているという。

 厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機の移転に伴い、軍人や軍属、家族も岩国に移り住む。計約3800人が今年後半までに引っ越しを終える予定で、基地関係者は1万人超になる。

 市の人口は住民基本台帳によると約13万6千人(1日現在)。この数字に基地関係者は含まれていない。実は市は、その正確な人数を把握できていない。基地の外にどれだけ住んでいるかも分からない。防衛省が2013年3月末のデータを最後に公表をやめたからだ。

 同省は、非公表の理由を「米軍を狙うテロなどの脅威を考慮し、米側が情報を提供しなくなった」と説明する。岩国基地は市の照会に年平均の基地人口を回答しているが、14、15年については答えなかった。

 日米地位協定により、米軍関係者は、日本の在留管理制度の対象から除外されている。軍人の出入国にはパスポートも必要ない。関係者の人数は機密のベールに包まれ、国ですらその数をつかみにくくなった。

 その影響は、自治体の基礎的データである人口に及ぶだけではない。国民が納めた税金の使われ方にも直結する。

 地位協定で、米軍関係者は市町村民税など一部の課税が免除されている。このため国は、米軍施設のある自治体に対し、同税などを「穴埋め」するための調整交付金を配っている。17年度は全国で72億円を交付。うち岩国市には2億7500万円が配分された。

 交付額をどう算出しているのか。所管する総務省固定資産税課は「防衛省から提供された米軍関係者数を基に算定している」。一方、防衛省は「米軍が最後に公表した13年3月末の人数に、知り得た範囲での変動状況を加えて総務省に伝えている」。税金を原資とする交付金の額は今、おおよその人数を基にはじき出されている。

 岩国基地の内外に暮らす米軍関係者の増加で、治安面の懸念も増す。

 山口県内の米軍関係者による刑法犯の件数は1970年代、年間100件を超えたこともあった。しかし、近年は年数件で推移している。沖縄県などで事件事故が繰り返されるたび、在日米軍は他基地でも夜間外出禁止などの綱紀粛正策に取り組む。ただ今月11日、岩国基地の海兵隊員がピッキング防止法違反の疑いで岩国署に逮捕、書類送検された。

 艦載機受け入れを巡り、市は08年、43項目の安心安全対策を国に要望した。その一つ、「基地の外に住む米軍関係者の居所の明確化」は、今のところ実現しそうにない。

 「米兵の犯罪を許さない岩国市民の会」の大川清代表(59)は疑問を投げ掛ける。「米軍はよく『良き隣人になる』と言う。ならば私たちの生活圏にどれだけ暮らしているか、詳細に公表すべきじゃないか」(久保田剛)

<米軍関係者の都道府県別居住者数>(2013年3月末時点)

都道府県 居住者数(かっこ内は、うち基地など施設内の居住者数)
沖縄県 52092(16435)
神奈川県 26498(7304)
東京都 8201(1311)
青森県 8118(1717)
山口県 5379(1115)
長崎県 5059(2191)
静岡県 185(30)
広島県 100(79)
埼玉県 19(19)
宮城県 6(6)
北海道 5(5)
岐阜県 4(4)
愛知県 4(4)
大阪府 2(2)
宮崎県 2(2)
京都府 1(1)
兵庫県 1(1)
熊本県 1(1)
計 105677(30227)

※防衛省資料から作成

米軍に関する調整交付金
 正式名称は「施設等所在市町村調整交付金」。米軍が建てた施設など米軍資産のある市町村を対象に国が交付する。米軍資産に対する固定資産税や米軍関係者の市町村民税は非課税のため、それらを補う目的。2017年度は全国53市町村・特別区に計72億円を交付した。

(2018年4月18日朝刊掲載)

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