イワクニ 地域と米軍基地 地位協定の壁 <5> 日本の空 「特権」で訓練
18年4月20日
艦載機 夜間に離着陸も
かすかに聞こえてきたジェットエンジン音を頼りにカメラの望遠レンズを向けた。17日午後、広島県北広島町の掛頭山(かけずやま)(1126メートル)山頂付近。ごう音が急に辺りに響き、姿を現した米軍の戦闘機が尾根より低い高度で飛び去っていく。撮影した画像から、米軍岩国基地(岩国市)の海兵隊機とみられる。
掛頭山は、西中国山地に広がる米軍訓練空域「エリア567」直下にある。中国新聞のカメラマンはこの冬から、訓練の状況を確認しようと同町や西隣の安芸太田町に通っている。北広島町の聖湖付近では、急降下と急上昇を繰り返す米軍機を何度も見掛けた。
翌18日、掛頭山山頂付近から西に約3・5キロの同町八幡地区。米軍機とみられる2機が約1時間にわたって上空で旋回を続けた。八幡郵便局の高木茂局長(63)は「いいかげん、もう帰ってくれと思った。最近はほぼ毎日、飛行音が聞こえる」と表情を曇らせた。
西中国山地の山あいでは1990年代以降、米軍機の訓練が目立つようになった。自治体や住民が低空飛行訓練の中止を国や米側に求めても、米側は「必要不可欠な訓練」などと説明する。
なぜ、米軍が日本の空で訓練できるのか。日米地位協定や関連法が米側の「特権」を認めているからだ。爆撃を伴わない通常の飛行訓練であれば、米側が安全と判断すれば事実上、どこでも実施できる。
米軍機は、協定に基づく特例法により、日本の航空法の適用を除外されている。最低安全高度の順守、夜間飛行時の灯火、速度制限といった規制を守る義務はない。
中国地方をはじめ、各地で低空飛行訓練が問題になったのを受け、日米合同委員会は99年、米軍機が低空飛行訓練をする際、日本の航空法と同じ高度規制(市街地300メートル、その他150メートル)を適用することで合意した。
「米軍機は好き勝手に飛んでいるわけではない。法律によらずとも、国家間の合意や取り決めによって対策を講じている」と外務省日米地位協定室。しかし、西中国山地では今も、騒音への苦情や、低空飛行訓練を危惧する声が相次いでいる。
そして、新たな訓練が岩国基地を拠点に始まる。厚木基地(神奈川県)から移った空母艦載機のパイロットが九州沖で実施する着艦資格取得訓練(CQ)。5、6月の実施とみられている。岩国基地で夜間の離着陸が増える可能性があるほか、岩国と九州沖とを行き来するルート直下でも騒音被害が拡大する懸念がある。
「軽減措置をしっかり図ることを米軍に求めるよう国に要請した」。18日、CQ実施について国から説明を受けた岩国市の福田良彦市長は強調した。
しかし、厚木基地周辺で騒音に悩まされてきた「厚木基地を考える会」の矢野亮代表(66)=神奈川県座間市=は言い切る。「地元自治体が夜間の飛行自粛を求めても、米軍は自分たちの運用を優先してきた。国がどれだけ米側に働き掛けたかも見えなかった」
本格化する艦載機部隊の訓練で、地域は改めて地位協定に向き合う。(久保田剛、山田太一)
着艦資格取得訓練(CQ)
米空母艦載機のパイロットが空母に着艦する資格を得るための試験。実際に洋上展開した空母を使い、日中と夜間、甲板に設置されたワイヤに機体のフックを引っ掛けて着艦する技量を採点する。1回の訓練期間は4日間程度で、艦載機を運用する米海軍第5空母航空団のパイロット約100人が参加する。CQの開始は、滑走路を甲板に見立てて離着陸を繰り返す陸上空母離着陸訓練(FCLP)後、10日以内と規定されている。
「地位協定の壁」は終わります。
(2018年4月20日朝刊掲載)