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社説・コラム

社説 北朝鮮の核実験中止 不可逆的な流れにせよ

 北朝鮮がきのう、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の中止と核実験場の廃棄を表明した。相次ぐ核・ミサイル実験で緊迫した昨年の国際情勢を考えれば、想像もつかなかった事態の進展である。

 朝鮮半島の非核化への動きとして期待したいところだが、表明の中身をつぶさに見れば冷静に受け止める必要もある。

 27日に南北首脳会談、6月初旬までに史上初の米朝首脳会談が予定される。日本を含む国際社会は、この非核化の流れをより強く、確かなものにしなければならない。北朝鮮に対し、完全な核廃棄を実行させる具体的なロードマップ(行程表)を示し、早急に同意させるべきだ。

 今回の決定は、重要なトップ外交を前に、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が本気度を示したとも受け取れる。むろん最大の目的は体制保証を得ることだろう。それを見越しても、日米などが求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」に踏み出すのなら、率直に評価したい。

 党中央委員会で採択された文書には、核実験中止を「世界的な核軍縮のために重要な過程」と位置づけ、「全面中止のための国際的な努力に合流する」とある。注目すべきフレーズだ。核兵器なき世界に向けた国際的な潮流を意識したのだろうか。ならば、脱退を表明した核拡散防止条約(NPT)への「復帰」や、被爆者が各国に求めている核兵器禁止条約への加盟も真剣に検討してもらいたい。

 だが、文書全体を見ると、懸念は拭えない。今回の実験中止や核実験場廃棄の理由は「核兵器の開発が実現」したからだという。今後の首脳会談に、北朝鮮が核保有国として軍縮交渉を進めるような態度で臨んでくるなら、米韓などは厳しい姿勢を示すべきだろう。

 他にも気掛かりな部分がある。「わが国に対する核の威嚇がない限り、核兵器を絶対に使用しない」との記述だ。過去に核保有国から何度も聞かされてきた。核兵器を抑止力にしている。この論理に立つ限り、核兵器のない世界は永遠に訪れないことがなぜ分からないのか。

 北朝鮮が、かつて核廃棄の約束をほごにしたことも忘れてはならない。6カ国協議では、初めは対話を通じて非核化を目指すような姿勢を示していたが、水面下で核開発を進め、核実験を強行するに至った。

 核実験場の廃棄には、国際原子力機関(IAEA)などの厳しい査察が必要だろう。北朝鮮が受け入れを拒んだり引き延ばしたりすれば、廃棄の意思なしとみなされて当然である。核完全廃棄を巡っても、日米韓3カ国が「2020年夏ごろまで」と期限を区切る案を検討しているのはもっともだ。

 おととい南北首脳間の直通電話(ホットライン)が開通し、27日の会談前に初めての通話が行われるという。首脳同士の10年半ぶりの対面は全世界に生中継される見通しだ。非核化と同時に、朝鮮戦争の休戦協定が平和協定に転換する動きにつながるかどうかも注目したい。

 一方で、日本と北朝鮮の間には拉致問題がある。非核化への動きがどれだけ評価できようとも、被害者の早期帰国が実現しなければ経済協力はおろか、制裁解除もあり得ない。繰り返し訴えなければならない。

(2018年4月22日朝刊掲載)

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