×

社説・コラム

社説 NPT準備委 核軍縮 保有国に迫ろう

 2020年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた準備委員会が5月4日まで、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれている。昨年7月に採択された核兵器禁止条約に今なお背を向ける核保有国に譲歩を迫れるのか。重要なだけに被爆地としても注目したい。

 おとといは広島で被爆した80歳の女性や、被爆地広島と長崎の両市長が演説した。松井一実市長は核兵器の非人道性とともに「具体的な核軍縮措置を速やかに実施すべきだ」などと訴えた。こうした声に各国の代表たち、特に保有国の出席者はしっかり耳を傾けただろうか。

 平和で安全な地球にするには核兵器をなくすしかないというのが禁止条約である。核兵器がある限り使われる恐れは残る。たとえ単なるミスで使われても万一爆発すれば、人間や街はどうなるか、広島、長崎が証明している。いかなる理由があろうとも誰に対してでも、使用は正当化できない。

 都市を狙えば多くの市民が犠牲になる。非人道的と言われるのも当然だろう。そんな長年の広島・長崎の訴えを国際社会が真剣に受け止めて行動し、採択されたのが禁止条約だった。

 核保有国は、制定に向けた国際会議に参加もせず反対してきた。核軍縮に消極的な自らの言動が皮肉にも国際社会の反発を招き、条約採択を後押ししたことを分かっているのだろうか。

 NPTは第6条で、誠実に核軍縮交渉を行うよう義務付けている。発効から半世紀近くになるが、核保有国が誠実に努力してきたとは言い難い。冷戦終結で大幅に減ったものの、核兵器は今も約1万5千発あり、地球を数回破壊できる。核軍縮は近年、米国・欧州とロシアとの対立もあって停滞したままだ。

 しかも昨年誕生した米国のトランプ政権は、新たな核戦略指針に小型核の開発を盛り込むなど、「核なき世界」を掲げて核兵器の役割を小さくしようとしたオバマ前政権に逆行している。人道にもとる態度だと言わざるを得ない。

 核実験やミサイル開発を強行してきた北朝鮮との交渉の行方が心配になる。トランプ大統領は近く首脳会談に臨む。核放棄を迫るのは当然だが、朝鮮半島、ひいては北東アジア全体の非核化を目指さなければ、地域の平和や安定は実現できない。

 腹立たしいのは日本政府の対応だ。禁止条約を進める国と保有国の「橋渡し役」を務めると言うが、米国の代弁者にしか見えない。新たな核戦略を評価するなど、「核の傘」を差し掛ける米国に配慮しすぎだ。国際社会の流れを見失っている。

 核兵器廃絶というゴールは、米国をはじめ保有国も掲げてきた。「段階的に進める」という決まり文句で逃げるつもりなら、その道筋をきちんと示してもらいたい。

 非保有国には使わない。保有国の間でも自分から先には使わない。たとえば、そんな約束を保有国に求めてはどうだろう。

 保有国に核軍縮を迫り、約束したことを守るよう国際社会でチェックする―。禁止条約を進める国や国際非政府組織(NGO)に、被爆地が加わって、そうした話し合いの土台を築いていく努力が欠かせない。そうしてこそ、「核なき世界」の展望が開けるのではないか。

(2018年4月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ