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社説・コラム

社説 南北首脳会談 非核化へ歩み止めるな

 朝鮮半島を南北に隔てる北緯38度線。その軍事境界線にある板門店できのう、現代史の新たな一ページが刻まれた。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が会談し、「核のない朝鮮半島の実現」を目指す共同宣言を発表した。

 「板門店宣言」に続いて両首脳は共同会見で「南北の完全な非核化」を訴え、南北の融和に向けた努力をアピールした。米ソ冷戦を背景とする朝鮮戦争(1950~53年)で分断された民族が同じ方向を向いて歩き始めること自体は国際社会としても喜ぶべきことだろう。

保有核どう処分

 ただ最大の焦点だった非核化を巡る評価は分かれよう。達成時期や、北朝鮮が既に保有する核弾頭をどう処分するかを明確にしなかった。ゴールを決めても道筋に触れないのでは絵に描いた餅に終わる恐れもあろう。

 言葉に酔うのではなく、現実を見据えた対応や覚悟が求められる。6月上旬までに予定される史上初の米朝首脳会談では、板門店宣言の理念や具体的なプロセスを示さねばなるまい。

 10年半ぶりとなる3回目の南北首脳会談は、日本など周辺国のみならず、世界が驚きと期待をもって見つめたに違いない。

周到に融和演出

 金委員長は1人で歩いて軍事境界線を越え、北朝鮮の最高指導者として初めて韓国の地を踏んだ。文大統領も笑顔で出迎えて握手をし、韓国側の施設「平和の家」にいざなった。対面から会談冒頭までテレビ中継を認め、板門店に記念植樹をするなど、融和ムードの演出は用意周到だった。

 ただ会談でどこまで突っ込んだ話があったかは分からない。

 非核化にしても、北朝鮮は20日の党中央委員会総会で核実験場廃棄を決定したものの、核放棄には言及せず、むしろ核保有継続の立場表明ではないかとの疑念を生んだ。金委員長は会談冒頭で「必ず必要な話をして良い結果をつくる」と表明したが肝心の中身はどうだったのか。

 既に6回の核実験を重ね「国家核戦力完成」を宣言している北朝鮮である。これまでの技術的な蓄積から、核弾頭をいつでも増産できるとの指摘もある。

 米国や日本が求めるのは「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」だ。金委員長は自らの地位を含む「体制保証」の交換条件に非核化を挙げるが、どこまで本気だろう。同じことはミサイル問題についても言えよう。

 北朝鮮は以前にも増して、したたかになった。年明けまでは誰しも予想だにしなかった南北首脳会談を実現させた。挑発的な言動で「瀬戸際外交」を続けてきた金委員長の姿勢が一変したのは、ことし2月の平昌冬季五輪だった。妹で側近の金与正(キム・ヨジョン)氏を韓国に派遣し、「ほほえみ外交」で手はずを整えた。

 これだけで北朝鮮の政治変化を期待するのは楽観的過ぎよう。心変わりの背景には、経済制裁が効いていたとの見方もある。年内の終戦宣言を目指すとした朝鮮戦争にしても、平和協定を締結し、米国の敵視政策を変えさせたいのが本音だろう。

核廃絶の契機に

 文大統領も、これまでの北朝鮮の手のひら返しを忘れてはならない。「自主的な南北統一」を掲げた2000年の共同宣言でも、合意した軍事緊張の緩和や経済交流が挫折している。今回も安易な妥協や譲歩は、禍根を残すことになりかねない。

 注目された日本人の拉致問題への言及はなかった。トランプ米大統領が被害者救出の協力を約束しており、米朝首脳会談での進展を期待したい。

 「核のない朝鮮半島の実現」との言葉には韓国も当然含まれ、「核の傘」や在韓米軍の位置付けにも関わることは避けられない。日本が自らを省みるべき問題でもあり、世界の核廃絶に向けた道しるべとしたい。

 金委員長は公開された会談冒頭でこう述べた。「過去のようにいくら良い合意や文章が発表されても、きちんと履行されず良い結果に発展しなければ、期待を抱いた方々をむしろ失望させる」と。南北首脳会談を確かな一歩としなければならない。

(2018年4月28日朝刊掲載)

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