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社説・コラム

天風録 『手をつなぐ意味』

 学生だった24年前、韓国を初めて旅した。新鮮だったのは、どの街でも男同士、女同士が手をつなぎ、腕を組んで歩いていたことだ。案内してくれた姜(カン)君に尋ねると「友達なら当たり前だろ」と、ぎゅっと手をつながれた▲古い話を思い出したのは、きのう板門店であった南北首脳会談のテレビ中継を見たからだ。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)氏と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)氏が、民族分断のシンボルである軍事境界線を行ったり来たりした。互いに手を取り合って▲歴史的な場面として語り継がれよう。文氏まで北朝鮮側へと境界線をまたいだのは、当初のシナリオになかったという。とっさに判断したのか、演出だったのか▲「境界線は現実の世界ではなく、心の中にある」。ベストセラー「世界がもし100人の村だったら」の原案を考えた環境学者のドネラ・メドウズさんがつづっている。悲しい歴史を意識するからこそ、導かれるように手をつないだのかもしれない▲旅を共にした姜君とは名物の爆弾酒で盛り上がり、二日酔いのおまけがついた。手をつないだのは、初の渡航で緊張していたこちらとの距離を縮める演出だったと今は思う。演出が「現実の世界」を引き寄せることもある。

(2018年4月28日朝刊掲載)

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